ニュースレター
「一診療、一笑い」を合言葉に。現場に届ける「笑顔の処方箋」/ 齋木啓子(悠翔会在宅クリニック新橋 院長)
■在宅医療の究み
私が日々の診療のなかで、特に大切にしている「心の距離」の縮め方について、少しお話しさせていただきます。
私が現場で密かに目標に掲げているのは、「一診療、一笑い」です。診察を終えてお宅を後にするとき、患者さんやご家族の表情が、訪問時よりも少しだけ和らいでいること。その「笑い」こそが、どんな薬よりも信頼関係を深め、互いの緊張を解きほぐしてくれると感じています。
わたしたちは、多い方では毎月2回、定期的にお宅を訪問します。これは、遠方の親戚や親しい友人よりも高い頻度で顔を合わせていることになります。この「友人以上の密な関係性」を、単なる「医療提供者と患者」という形式的な枠組みに留めておくのは、少しもったいない気がするのです。
私が心がけている工夫の一つは、「同じ地域に住む一人の人間」として会話を楽しむことです。「お探しの綿の下着なら、あそこに売っていますよ」「あの角の桜がもうすぐ咲きそうですね」といったローカルな話題は、一瞬で専門職としての壁を取り払ってくれます。
また、あえて自分や家族の話をすることもあります。こちらが自己開示をすることで、患者さんも「先生も家では普通のお母さんなんだね」と笑って、ご自身の本音をぽろりと話してくださることがあります。「相手を知りたい」と願うなら、まずは「自分たちのこと」を知ってもらう。そんな双方向のコミュニケーションが、在宅の現場を豊かにしてくれるように感じます。
齋木啓子(悠翔会在宅クリニック新橋 院長)