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〈JUN’s letter〉AIとロボティクスが変える医療の未来~人間的価値の再定義
AI(人工知能)とロボティクス(ロボット工学)の進化は、「ホワイトカラー大量リストラの時代」を招くと指摘されています。作業的な業務は次々と自動化されていくため、いわゆる「指示待ち要員」は必要とされなくなるでしょう。
このような劇的な変化の中で、ホワイトカラーが生き残るためには、AIに適切に仕事をさせるための正確な一次情報をキャッチし、最適なタイミングで活用する能力が不可欠です。また、「現場力」と「アセスメント力」、そして「コミュニケーション力」が今以上に求められることになります。
AIやロボティクスが普及すればするほど、人が自ら頭を使い、心を配り、手を動かさなければできない仕事こそが、社会で評価されるようになるはずです。評価に見合った報酬を得るためには、テクノロジーと規制緩和で社会全体の生産性を高め、そこで生まれた価値を人に再投資する仕組みが必要であると考えられます。
ヘルスケア業界における専門職の役割の変化
この視点でヘルスケア業界を眺めると、専門職に求められる仕事の中身が大きく変わることが予測されます。
1. 医師の役割の変化
内科系医師については、診断・治療ガイドラインをそのまま患者に適用するだけでは必要とされなくなるかもしれません。総合診療や家庭医療によるかかりつけ医機能についても、PHR(Personal Health Record)とアプリ、低頻度のオンライン診療による自己管理が主流となる可能性があります。患者が対面での診療に相応の価値を感じるためには、対面でしか提供できない何かが必要になります。
また、薬剤の調整作業などは、機械にタスクシフトすべき典型的な領域であり、薬剤の流通機能や型通りの服薬指導であれば、薬剤師がかかわる必要はなくなると考えられます。日本は規制で守られている部分がありますが、日本以外の国では大規模集中調剤は珍しくありません。
2. 看護・リハビリテーション・介護職の価値
一方で、看護、リハ、介護の仕事は、その一部がテクノロジーの支援を受けることがあっても、根本的なニーズは変わらないとされています。むしろ、機械との役割分担が進むことで、より人間的な部分が重視されていく可能性があります。
さらに、これらの職種は患者に最も近いインターフェイスとして、医療からのタスクシフトの受け皿となり、さらに高度な機能が求められるようになる可能性を秘めています。医療の合理化によって生まれたコストは、この分野に振り向けられるべきです。
医療専門職の選択肢の拡大
保険医療の効率化が進むことで、将来的に医療業界で人手が余る可能性があっても、これは悲観することではありません。医療資格者は保険診療に限定される必要はなく、自費医療を含む保険外領域や海外へのアウトバウンド、あるいは間接的領域にも活躍の場を広げることができます。
例えば、美容やアンチエイジング医療はマーケットを拡大し、サービスの質を磨くことで、インバウンドで海外の患者に高度な自費医療を提供することが可能です。意欲と能力のある医師は、グローバルに活躍することが期待されます。
技術革新は単に効率化をもたらすだけでなく、患者の選択肢、専門職の選択肢が増えることでもあります。これらをうまく取り込みながら、患者にとっても専門職にとっても最適な医療ケア提供体制を構築していく柔軟性が求められます。