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〈JUN’s letter〉費用負担増は解決策ではない。救急医療の最適化に不可欠な「もう一つの選択肢」

救急医療の課題~患者を批判する前に制度の不備を見よ
先日、夜間救急診療を担当した際、若い女性が腹痛を主訴に救急車で来院しました。医師の立場からみれば、整腸剤を飲んで様子をみる程度で良いと感じる症状でしたが、本人にとっては極めて心配な症状であり、救急要請は妥当な選択に思えたはずです。

この状況が示す問題の本質は、「救急要請のハードルの低さ」ではなく、「救急以外に相談窓口がないこと」にあります。家庭医(GP)が制度化されている国々では、こうした軽微な症状での救急要請はほとんど起こらないでしょう。わたしたちは、制度の不備や選択肢の不足を棚に上げて、患者側を批判すべきではありません。

自己負担増がもたらすリスク
一部の自治体では救急車の有償化が検討され、また救急病院は紹介状を持たない緊急受診患者に対して追加費用(選定療養費)を請求することが可能になっています。これは救急要請を抑制する一つの延長線上の取り組みとして理解できます。

しかし、自己負担の増加には大きなリスクが伴います。
• 必要な医療へのアクセス制限:
費用負担が増えることは、「不要な医療の抑制」につながる一方で、「必要な医療へのアクセス制限」という側面も持ちます。特に経済的に脆弱な層は、自己負担が減ることで医療アクセスが改善することが示されており、その逆もまた然りです。
• 健康アウトカムの悪化:
自己負担の増加によって受診をためらうようになれば、早期発見・早期治療の機会を逃し、結果的に重大な健康アウトカムの悪化や、より大きな社会保障費の支出につながる可能性があります。

夜中にかかりつけ医が診療して紹介状を書くという対応は、現状では在宅患者さんくらいに限定されています。また、入院の必要性について、患者さんやご家族だけで判断することは困難です。

 

求められる「救急以外の選択肢」の確保
救急医療の最適化を実現するためには、救急以外の医療アクセスの選択肢の確保とセットで改革が行われるべきです。

真に必要なのは、患者が不安を感じたときに気軽に相談できる、かかりつけ医機能を核とした、初期段階のアクセスポイントを整備することです。それにより、患者のニーズを最優先にした妥当な選択肢が提供され、結果として救急医療資源の適正利用につながるでしょう。

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