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〈JUN’s letter〉自己判断で薬を飲むな! 僕が体験した救急回避術と医療費削減の罠
週末、私は悪寒、腹痛、激しい下痢に襲われました。ウイルス性腸炎だと確度高く見当をつけ、大手チェーンドラッグストアで「ビオフェルミン下痢止め」と、リクエストして購入した「ブスコパンA錠」(鎮痙剤)を服用し、症状を乗り切ることができました。正直なところ、広島での講演をドタキャンすることも考えるほどの体調でしたが、講演終了までに腹痛と下痢は収まりました。

頻回受診抑制策としてのOTC「保険外し」
現在、軽微な症状に対する薬の処方を保険から外し、薬局で自費購入(OTC類似薬)を促す議論が進んでいます。私の今回の支払いは約3,000円で、受診・調剤を合わせた自己負担額と大きく変わらず、待ち時間ゼロであるため、一見合理的な推進策に見えます。社会保障費も削減できると期待されています。
しかし、問題は「軽微な症状」を患者自身が判断できない点にあります。先日、ウイルス性腸炎で救急要請した20代女性の例もありますが、医療者でさえ、消化器以外の症状には「悪性黒色腫ではないか」「骨肉腫ではないか」など、深刻な懸念を抱きます。体調が悪化した時に「とりあえず病院に行ってみよう」と考えるのは、私たち人間にとって自然な発想なのです。
薬局・薬剤師の役割の強化が不可欠
この患者心理の壁を乗り越え、OTC類似薬の保険外しを成功させるためには、国民が病院に行くのではなく、自然と「まずは薬局に行ってみよう」と思える状況を作らなければなりません。
私が今回経験した薬局での対応は、この点に大きな課題があることを示唆しています。薬剤師は、私が鎮痙剤(ブスコパン)をリクエストした際、腹痛の原因や、禁忌である緑内障や前立腺肥大の有無を尋ねることなく、会計を済ませました。
薬剤師がプライマリヘルスケアの担い手として、単なる「お店」の店員としてではなく、「医療機関」の職員として存在感を発揮することこそが重要です。
また、OTC薬には限界があります。例えば、ウイルス性腸炎に伴う嘔気・嘔吐に対応する制吐剤(ドンペリドンなど)の多くは、OTC化されていません。
ここで注目すべきなのが「零売(れいばい)」の活用です。医療用医薬品の約半数は、薬剤師が処方箋なしに直接販売することが可能です。例えば、吐き気が強い患者にメトクロプラミドを2日分零売することで、医療機関の受診を避けることができる可能性があります。
OTC類似薬の保険外しは、限られた財源を重症者に振り向けるという重要な考え方に基づいています。しかし、その症状が本当に軽微なのか、OTCで対応できるのか、誰かに相談したいというニーズが満たされなければ、結局、受診や救急搬送につながってしまいます。
薬剤師がその専門性と主体性を発揮し、適切なアセスメントと相談対応を行うことが、医療費削減と国民の健康不安解消の両立を実現する鍵となります。