ニュースレター

<JUN’s letter>急性期も“自宅で治す”。台湾発・Hospital at Homeの挑戦

台湾で試行されている「Hospital at Home(HAH)/Acute Care at Home(急性期在宅医療)」を現地で体感してきました。結論から言えば、日本も大いに学ぶべき仕組みだと感じました。

 

対象は肺炎、尿路感染、蜂窩織炎(軟部組織感染)の3疾患に限定されますが、標準化されたプロトコルに従って自宅で治療を完結させるモデルです。特徴は制度設計にあります。まず、包括報酬が基本で、診療・訪問看護・薬剤・検査・処置・特定材料・IoTによるモニタリングまで、すべてが1日あたりの定額報酬に含まれています。さらに合理的な治療計画で短期間に治療を完結させれば、短縮分に対してインセンティブが支払われます。つまり、医療機関は無駄のない治療を進めるほど報酬が増える設計です。

 

実際、1年間のトライアルでは89%が在宅で治療を完遂。平均治療日数は肺炎で7.8日、尿路感染で6.2日、蜂窩織炎で6.1日と、いずれも全国の入院平均12日を大幅に下回りました。医療費も入院と比べて約43.4%に抑制。患者・家族にとっては「自宅で安心して過ごせる」メリットが大きく、病床利用や医療資源の効率化、財政面の持続可能性にも寄与します。

 

実際に同行した症例でも、在宅酸素療法と抗菌薬点滴で1週間治療を続けた高齢女性が自宅で回復し、退院判断を受ける姿が印象的でした。患者本人や家族が「自宅で安心して治療を受けられた」と笑顔で語る姿に、制度設計が現場で力を発揮していることを実感しました。

 

日本でも在宅で急性期の治療は行われていますが、報酬は出来高制の積み上げ。往診、訪問看護、薬剤、検査…すべて個別算定であり、特に急性期だけを在宅で担うケースでは医療機関に十分な収益が残らず、経営的に厳しい現状があります。新型コロナ肺炎の在宅治療で「頑張るほど赤字が膨らむ」と言われた背景も、まさにそこにありました。

 

台湾モデルが示唆するのは、標準化されたプロトコルと包括報酬+インセンティブによる急性期在宅医療の評価が可能であるということ。入院しか選択肢がないと考えられてきた領域に「在宅で治す」というもう一つの選択肢を用意できるのです。

 

悠翔会としても、「その人らしく生きる支え」を掲げる以上、自宅で安心して急性期治療を完結できる仕組みには強い関心を持っています。制度設計次第で、日本の在宅医療も大きく変わる。HAHは、その未来を示すヒントになると確信しました。

ページ先頭に戻る