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〈JUN’s letter〉「先輩医師の経験談」は役に立たない!? 20年後の医療者に求められる「意外な能力」とは
100の瞳に伝えた「生命への畏敬」
日曜日の朝一番、母校である千葉県立東葛飾高校で、医歯薬系への進学を希望する後輩たちに向けたリベラルアーツ講座「生命への畏敬」を担当しました。今年で11年目になります。これから医療者を志すキラキラした100の瞳を前に伝えたのは、医療の現場では患者さんの人生のごく一部しか見えないけれど、人は医療によって「生かされる」だけの存在ではない、ということです。
なぜ「先輩の経験談」は役に立たないのか
講義の中で、私はあえて「現在の現役医師のキャリアプランやサクセスストーリーをそのまま参考にすることに意味はない」と伝えました。なぜなら、彼らが医師としてデビューするのは10年先、そして医療の中核を担うようになるのはさらにその10年後、つまり20年後の未来だからです。
その頃、日本の、そして世界の医療はどうなっているでしょうか。人口構造や疾病構造は変化し続け、AIやテクノロジーとの役割分担も加速度的に進んでいるはずです。社会保障制度そのものがドラスティックに変化している可能性さえあります。今の私たちが歩んできた成功体験やキャリアパスは、20年後の彼らにとってはもはや「過去の遺物」となりかねないのです。
求められるのは「フロンティア精神」
10年後、20年後の医師の需給を考えると、現在のように闇雲に医師数を増やす政策は合理的とは言えません。そんな変化の激しい時代において、未来の医療者に最も求められる能力とは何でしょうか。それは、誰かが敷いたレールの上を走ることではなく、「自分で考えて、自分の信じる道を切り開いていくこと」です。
この「フロンティア精神」こそが、これからの時代に必要なマインドセットです。母校の校是である「自主自律」の精神で、後輩たちが自由闊達にキャリアを開拓していくことを願ってやみません。また、講義プログラムの見直しにあたっては、これからの時代を見据え「国際医療(世界の医療)」についての視点を取り入れるべきだと提案もさせていただきました。
わたしたち先輩医師にできることは、過去の成功を押し付けることではなく、彼らが羽ばたく未来をそっと見守ることなのかもしれません。