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「特養は機能回復できない」はもう古い!? 管理栄養士が壱岐で起こした“栄養ケアの奇跡”とは
■jun’sLetter
「特養は機能改善できない」を覆す積極的栄養ケア
特養の入居者は要介護3以上が大部分を占め、フレイルとは異なり機能改善のための介入効果が出にくいとされています。 しかし、壱岐の特養では「老衰のプロセスにあっても維持・改善ができるのではないか」「コロナ禍で減少した活動範囲を拡大することで機能回復を促せるのではないか」という仮説に基づき、「しっかり食べて体を動かす、話す・笑う」ケア(もぐすたプラン)を実践しています。
具体的には、低体重の方にゆで卵や鶏の照り焼きなどを追加してゆっくりしっかり食べてもらい(+100kcal、タンパク質9g)、歩行器での歩行を促しました。 その結果、体重30kg・BMI15だった89歳の方が、45.2kg・BMI22.4まで回復するという驚くべき成果を上げています。体重増加だけでなく、お気に入りの場所やカフェに行けるようになり、要介護度も改善しました。 素晴らしいのは、体重や栄養状態の改善はあくまで「手段」であり、評価の尺度が「お気に入りの場所にいける」といった活動性や本人らしさ、生活の質に置かれている点です。
データが導く「早期に始める看取りケア」
さらに同施設では、過去に看取られた20名の方のデータを集計し、栄養に関する評価指標の2項目以上が「亡くなる2~6か月前」から低下する傾向を発見しました。 体重減少率や食事摂取量など、この分岐点となる数値を同定し、2項目に該当した時点で家族に現状と見通しを説明し、早期に看取りケアをスタートさせています。
これにより、離島であっても離れて暮らす家族が本人の意思疎通ができるうちに面会に来られたり、早めの意向確認で後悔のない「本人らしい生活のサポート」ができたりと、大きなメリットが生まれています。 管理栄養士が高齢者の病態生理を理解し、その科学的知識をケアに反映させることで、機能回復から看取り援助まで人生全体のQOLを上げることができるのです。
栄養ケア普及を阻む最大の壁とは?
このように栄養ケアは非常に費用対効果の高い介入ですが、特養の限られた給食予算の中でゆで卵や鶏肉を確保して実践するのは容易ではなく、制度のバックアップが求められます。
また、下関で開催された研修会でも共有されたように、優れた専門職が意欲と能力を発揮できる環境が整えば現場は大きく変わるはずですが、その最大のネックは「指示書を書く医師の無関心」にあります。 在宅栄養ケアへのアクセス改善は、医療・介護現場において今後腰を据えて取り組むべき重要な課題と言えるでしょう。