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「在宅で抗がん剤」が当たり前!? フランスの「在宅入院」の実態と、日本の“やりがい搾取”な在宅医療
■JUN’s letter
フランスの「在宅入院(HAD)」とは?
在宅医療の拡張性を検討するため、フランスの「在宅入院(HAD)」を見学してきました。日本が慢性期・安定期を中心とした「ときどき入院・ほぼ在宅」を目指しているのに対し、フランスは急性期・治療期を自宅で完結させる「なるべく入院しない」モデルを国を挙げて強力に推進しています。
HADの対象は、在宅化学療法(抗がん剤)、緩和ケア、難治性皮膚潰瘍の処置など多岐にわたります。日単位の包括報酬となっており、平均で1日250ユーロ(約4万5千円)と、日本の在宅医療に比べると非常に高額です。
実態は医師が回診しない「バーチャル病棟」
しかし、その実態は「医師つき機能強化型訪問看護ステーション」と言えるものでした。医師はコンサルテーションや後方指示に専念し、実際に自宅を訪問してケアを行うのは看護師です。
また、休日・夜間の緊急対応も義務ではありません。緊急時に看護師で対応できなければ「病院を受診すればいい」という非常にドライな割り切りがあります。看取りの率も高くなく、家族の不安が強ければ病院へ搬送されます。
フランスの医師が驚いた「日本の根性論」
翻って日本の在宅医療は、24時間365日の対応が義務付けられ、感染症から心不全の管理まで幅広くカバーしています。多職種連携による包括的なケアも含め、日本の在宅医療のレベルは非常に高いと言えます。
しかし、フランスの医師に言わせれば「日本のあの診療報酬レベルで24時間働けと言われたら、絶対にストライキする」とのこと。持続可能性と個人のライフワークバランスを尊重するフランスに比べ、日本はいまだに医療者の「根性論」と自己犠牲の上に成り立っていることを痛感しました。
巨大なロジスティクスと在宅化学療法
パリの民間非営利法人では、Amazonのような巨大な配送センターを持ち、無菌調剤された抗がん剤を半径100キロ圏内に4時間以内で届ける仕組みが構築されていました。1日200人以上の在宅化学療法を行っており、これはパリのがんセンターの実施数よりも多いそうです。
日本でも外来で抗がん剤治療が行われていますが、通院の負担は決して小さくありません。日本でも在宅化学療法が選択肢として広がれば、患者さんのQOLは大きく向上するはずです。
日本の在宅医療が向かうべき「拡張性」
フランスのHADは、記録や評価が構造化されているためデータとして可視化しやすいという強みがあります。一方で、日本の在宅医療・介護は、患者の自立支援を含めた全人的なケアを提供しており、その質は決して負けていません。
しかし、日本の訪問診療の対象が「通院困難な慢性疾患」に限定されている現状には見直しが必要です。進行がんや術後、妊産婦など、通院が大きな負担となる方々に対して、日本の高い在宅医療の質をもってすれば、もっと多くのニーズに応えられるはずです。
お国から領土を与えられるのを待つのではなく、自らフロンティアを開拓していく姿勢が、これからの日本の在宅医療には求められています。