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〈JUN’s letter〉入院費用を1/3に削減可能! 健保組合が注目する超高齢者医療の「ゼロベース改革」
医療における最大のステークホルダーは誰でしょうか?僕は、患者や医療機関ではなく、費用負担者(保険者+税金)ではないかと考えています。先日、僕は京都の健康保険組合連合会にお招きいただき、社会保険の持続可能性について2時間の講演とディスカッションを行う機会をいただきました。
そこで強く感じたのは、健康保険組合の深刻な危機感です。主に大企業の従業員とその家族を対象とした彼らは、組合員自身の医療依存度は低いものの、集めた保険料の半分を後期高齢者医療制度を支えるために拠出しています。彼らの関心の焦点は、現役世代ではなく、年々増大する後期高齢者の医療費にあり、この伸びが続けば制度は持続可能ではないという切実な危機感をひしひしと感じました。
病気は加齢とともに増えるため、後期高齢者、特に85歳または90歳以上の超高齢者の医療費が増大すること自体はやむを得ません。しかし、僕はその医療費の使われ方に大きな問題があると認識しています。この超高齢者集団は、一般急性期入院の約1/3を占めており、医療費支出の8割が入院によるものなのです。
彼らの入院理由の大部分は、肺炎や尿路感染などの感染症、心不全など、加齢に伴う機能低下が背景にあります。僕は、骨折手術などを除けば、これらの疾患の多くは入院しなくても在宅での治療が十分に可能ではないかと考えています。そして、自宅での治療は、病院での入院のように身体機能の低下を伴いにくいという利点もあります。
この考えを裏付けるのが、海外での「Hospital at Home(在宅入院・在宅急性期治療)」の実績です。例えば、台湾では肺炎、尿路感染、軟部組織感染症の3疾患について、在宅での急性期治療が制度化され、DPCのような包括報酬と効果的な治療に対するインセンティブが導入されました。その結果、入院期間は2/3に、入院費用は1/3に削減され、再入院率や死亡率は病院入院と差がなく、患者・家族の満足度は100%でした。インドでも在宅入院サービスを提供していますが、約80%が自宅で治療を完遂でき、患者満足度も高いです。
テクノロジーもこの在宅ケアを支えます。老々世帯の自宅でも、遠隔モニタリングのためのベッドセンサーを導入し、訪問看護が24時間対応することで、安全に肺炎治療が行えます。
僕は、現在の多くの病院の赤字の主因である「入院患者数の減少」は、病院サービスの問題ではなく社会変化の結果であると考えています。既存のベッドを温存するために診療報酬を手厚くしても、そのベッドは空床のままです。そうではなく、看護師を病棟から地域にシフトするなど、重度ケース以外は自宅や施設でケアができる体制を整えることで、入院依存を大幅に下げることができると思います。
僕は、実態的ニーズに応じたベッド数への弾力的なダウンサイジングと、機能の集約化を進めるべきだと提言します。特に医療ニーズよりもケアニーズのほうが大きい集団に対しては、急性期を含め、病院医療ではなく在宅医療・ケアを中心に対応すべきです。さらに、プロセスに対する出来高評価ではなく、再入院や死亡率も加味したバンドルペイメントを検討すべきだと思います。
財源が足りず、国民はこれ以上の社会保険料や消費税は払いたくないと意思表示している中、費用負担者としての健康保険組合は、国の支出にいつまでも黙っていてくれるとは限りません。僕は、中医協の議論が医療保険制度の「増改築」に留まっていることに強い危機感を抱いています。社会にとって、未来にとって最適な医療の形を創るためには、本当はゼロベースで考えなければいけない時が来ていると強く感じています。