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「手術の成功」は誰のため!? 忘れられないおばあちゃんの死

病気は治っても、奪われた暮らし

90歳を超えても声が大きく元気だったあるおばあちゃんは、早期胃がんが見つかった際、「主人が呼んでくれるはず」と手術を望みませんでした。しかし、家族は納得できず、外科医の「手術できる」という言葉に背中を押されて手術を決断します。無事に退院した彼女が3ヵ月後に自宅へ帰ってきたとき、その体はやせ細り、四肢は拘縮し、食事も会話もできない状態になっていました。そして2週間後、静かに息を引き取ったのです。これが、彼女と交わした最後の言語的コミュニケーションとなってしまいました。


患者が求めるのは「治療」ではなく「生活の回復」

医学的に手術が可能であることと、その人にとって手術を受けることが望ましいことは、必ずしも同じではありません。米国のマサチューセッツ総合病院の周術期高齢者支援外来で行われた、手術を予定している高齢患者61人を対象とした研究があります。研究結果によると、患者が求めているのは単なるがんの切除といった外科的問題の解決だけではありませんでした。半数以上が「自立して生活すること」や「普通の生活に戻ること」を期待していました。自分で歩く、自宅に帰る、仕事を続ける、旅行をする、料理をする、孫の成長を見守るなど、医療に求めているのは「生活や人生を取り戻すこと」そのものだったのです。


患者が「死」よりも恐れているもの

さらに同研究では、患者が恐れているのは「死亡」そのものではないことも明らかになりました。多くの患者が不安や恐れとして挙げたのは、「自立性の喪失(71.0%)」や、自分で判断し行動する「主体性の喪失(38.7%)」でした。手術で死んでしまうことよりも、歩けなくなること、他人に依存しなければ暮らせなくなること、施設に入れられること、認知機能が低下することを具体的に恐れていたのです。プレフレイルの高齢患者が医療に期待しているのは、生きるか死ぬかというよりも、自分の生活や人生を回復できるかということなのかもしれません。


「蘇生しますか」と尋ねるだけの事前指示書の限界

「あなたにとって最も大切なことは何か」という問いに対し、身体機能の維持・改善(54.8%)や家族に関すること(38.7%)が上位を占めました。患者の多くは、意味のある回復が期待できないと判断された場合には、長期にわたる生命維持治療を望みませんでした。しかし、「意味のある回復」という言葉は一律には定義できません。ある人にとってそれは自分で歩けることであり、別の人にとっては自宅へ戻ることや家族と会話できることだからです。ケアの現場で行われる「蘇生を希望しますか」「人工呼吸器を希望しますか」と尋ねるだけの事前指示書の作成では、本人の本当の意思を十分に把握できないことがよくわかります。


治療の成功を「患者の言葉」で定義し直す

臨床倫理では、医学的適応、患者本人の意向、QOL、周囲の状況という四つの側面を考えます。高齢者手術では、医学的に可能であっても、術後に本人が許容できない生活状態となる可能性があります。重要なのは「治療するか、控えるか」の二者択一ではなく、医学的利益と負担を示したうえで、それが本人の価値観に見合っているかを検討する対話のプロセスです。死亡率や合併症率に比べ、機能予後や自宅復帰の可能性は予測データを提示できないことも多く、測りやすいアウトカムと患者が重要と考えるアウトカムが一致しないのが現実です。だからこそ、わたしたちは「治療の成功」を、その暮らしに戻れることという患者の言葉で定義し直す必要があります。


参照元URL:

https://www.facebook.com/junsasakimd/posts/pfbid0X9qXa87AiCQWKR2dmFa6QVGK78Jo9ugLeScFGMkFYHrwN1NLhu53Gycg2efpNftEl

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