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がん患者の障害年金受給は1%未満!? 医師自ら“社労士”になって患者の経済基盤を守る、徳島の在宅医療の実態とは
■JUN’s letter
徳島愛にあふれる「おおた在宅クリニック」
先日、徳島市にある「おおた在宅クリニック」を見学させていただきました。 太田敦先生は総合商社での社会人経験を経てから医師を志し、ライブで訪れて好きになった徳島に移住して医学部に進学したという経歴の持ち主です。家庭医療の専門性を極めたのちに在宅の道へ進み、現在はお一人で徳島市北部周辺の患者さんをカバーされています。
お一人での診療ながら、患者さんを常時60人程度にセーブしつつ、主に終末期がんの患者さんを引き受け、年間50人ものお看取りをされています。多職種や病院との密な連携によって、急な退院依頼にもスムースに対応できるチームケアが機能している、すばらしいクリニックです。
圧倒的な実績でも“減算”となる制度の理不尽
お一人でこれだけの実績を上げている太田先生ですが、新しい診療報酬体系では、これまで算定できていた「在宅緩和ケア充実診療所加算」が剥脱されてしまいます。「常勤3人で看取り30人」という要件に対して、一人でその何倍もの実績を出しているにもかかわらず、常勤医師が1名という要件の壁によって減算になってしまうのです。診療の質が下がっているわけではないのに減算となる仕組みには、やはり何かが間違っていると強く感じます。
医師が「社労士」の資格を取得した理由
太田先生がさらに素晴らしいのは、医療の枠を超えた患者支援です。 在宅緩和ケアで療養しているがん患者さんの中には、本来なら「障害年金」を受給できるのに、その存在を知らずに経済的理由から治療や療養の選択肢を狭めてしまっている人がたくさんいます。実は、精神疾患などと違い、がん患者さんの障害年金受給率は1%未満なのだそうです。がんは予後が短く書類を揃えるのが間に合わなかったり、社労士でも対応が難しかったりすることが背景にあります。
これを見過ごせなかった太田先生は、なんと自ら社会保険労務士の資格を取得し、患者さんが障害年金を受給できるよう申請代行まで支援されているのです。在宅医療が成立する大前提は、自宅での生活を継続できる経済的基盤があること。医療者の無知がそのハードルになっている現状を変えようと、書籍の出版や啓発活動も行われています。
手間と情熱がかかるのは「藍染」も「医療」も同じ
太田先生のクリニックは、医学生時代を過ごされたという、工房やコミュニティスペースが一体となった素敵なコレクティブハウスの中にあります。建物内の工房では、徳島名産の「藍染」のための藍(すくも)を作る作業を見学させていただきました。 強アルカリの水で2週間かけて発酵させ、毎日混ぜ続けるという途方もない手間と情熱がかかっていることを知りました。それはまさに、患者さんに丁寧に寄り添う医療やケアと同じです。
初めて訪問した徳島市は、山の隙間から見える海と穏やかな街並み、そして夕陽が言葉にできないほど美しい街でした。「おおた在宅クリニック」では、現在一緒に在宅医療に取り組む医師を募集されているそうです。在宅医療専門医・指導医である太田先生のもとで、知識やスキルにとどまらない「本物の在宅医療」を学びたい方は、ぜひホームページをチェックしてみてください。