ニュースレター
〈JUN’s letter〉「オンライン看取り」と「全国包括ケアシステム」の衝撃
地域完結から広域支援へ:テクノロジーが実現する新しい在宅ケアの形
人口減少が進む地域において、「医師がいない状況でどのように看取りを進めるべきか」という問いに対して、医師の役割は低頻度の巡回診療や訪問診療に留めつつ、オンラインで看護師をバックアップする体制で十分に対応できるのではないでしょうか。
これは、新しい医師を地域に招聘するよりも、優秀な看護師を中心とした医療ケア体制を整備する方が現実的であるという考えに基づいています。看護師が対応できない範囲の高度な医療が必要な場合は、仮に医師が往診したとしても在宅で完結することは難しく、いずれにせよ病院への搬送が必要になります。
オンライン診療がもたらす質の向上
この新しい地域医療モデルの基軸となるのが、オンライン診療とオンラインによる専門職サポートです。特に、DtoPwithN(患者の横に看護師がいる状態でのオンライン診療サポート)は、単に医師が不在の地域をカバーするだけでなく、診療の質を向上させる可能性があります。看護師が患者の言葉にならない思いや症状を「翻訳」してくれることで、対面よりも本音で話がしやすくなるという研究結果もあります。
また、オンラインの活用は医師のサポートに留まりません。
1. オンライン看護: 在宅患者の状態確認やそれに応じた指示・助言は、オンラインでも十分に完結します。
2. オンライン栄養ケア: 訪問管理栄養士が不足する中で、管理栄養士が訪問看護師をオンラインでサポートする枠組みも提案されています。
3. オンラインリハビリテーション: 個別化された在宅リハビリをオンデマンドで提供するシステムは、患者の自主トレーニングの効率を高め、リハビリ専門職一人が関与できる患者数を大きく増やす、すなわち生産性の向上につながります。
これらのテクノロジーを活用することで、地域包括ケアシステムでは補えなかった、地域で完結できない部分を広域からの支援で完結させるという「全国包括ケアシステム」という発想が生まれます。
制度の不備と将来的な展望
しかし、この新しいモデルの実現には、制度的、および文化的な課題が存在します。
例えば、遠隔看取りは制度としては存在しますが、医師が死亡直前の24時間以内に診療をしていればよいという「超絶ゆるゆるルール」であるのに対し、看護師による遠隔看取りは、死体検案のような厳しすぎる要件(衣服をはがす、直腸温を確認するなど)が設定されており、合理的でないという指摘があります。
また、「地域医療」に関わる一部の医師の中には、地域外からの医療介入(広域からのオンラインサポートなど)に対して違和感や嫌悪感を感じる人もいますが、人口減少が進む中でテクノロジーの恩恵を封印するべきではないと思います。若手医師にとっては、過疎地に縛られることなく、市街地で症例を経験しつつ、一部の時間帯で離島や過疎地で診療(外来・巡回・訪問)し、それ以外の時間はオンラインでサポートする形が、地域住民の健康アウトカムを維持する上で現実的であると見られています。
この広域連携の仕組みは、悠翔会のように首都圏に多数の常勤医師を確保している医療グループが、地方・離島への巡回勤務やオンライン連携を強化することで、新しい時代の地域医療の創造に貢献できる可能性も秘めていると思います。