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〈JUN’s letter〉入院の常識が変わる? 医療技術の進化と在宅ケアの合理性

かつて、僕(佐々木淳)が勤務していた消化器内科病棟には、胃がん、大腸がん、胆膵がんなどの化学療法や、炎症性腸疾患の「腸管安静」を目的とした長期入院患者が多くいました。しかし、医療技術の飛躍的な進化は、入院のあり方を劇的に変えています。

 

たとえば、化学療法や放射線療法は外来で実施できるようになり、胃がんの主たる原因であったヘリコバクターピロリの除菌が進み、肝細胞がんの主原因であったB型・C型肝炎が治癒するようになったことで、発症そのものが減少しました。炎症性腸疾患に関しても、画期的な新薬の登場により、入院することはほとんどなくなっています。

 

このように、医療技術の進化によって、今後ますます入院への依存度は下がっていくと考えられます。
重要なのは、「入院でなければできないこと」と「入院でなくてもできること」を分け、コストや安全性から合理的に選択することです。しかし日本の医療制度には、この合理的な選択を妨げる側面があります。

 

特に、高額療養費制度の仕組みにより、長期入院しても患者負担が少なく済むため、外来や在宅で十分に診られる疾患であっても「入院」が安易に選択されるケースが少なくありません。このような状況は、国民の社会保障費に対するコストパフォーマンス意識が高まる中で、医療を提供する側も経営者側も深く考える必要があります。

 

現在の地域医療計画が、このような「入院を前提とした計画」のままで良いのか、改めて問われています。医療機関の経営や地域の医療資源の効率性を考える上で、医療技術の進化に対応した最適な医療提供体制を構築することが、喫緊の課題となっています。

 

重要なのは入院の是非ではなく、患者さんのその時々の状態や生活状況、地域の社会コストを考慮した上で、最も機能し、患者価値の高い医療を届けることです。

 

 

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