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〈JUN’s letter〉日本庭園のように。変化とともに歩む在宅ケア
日本庭園を眺めるとき、そこには造り手の意図だけでなく、風や光、季節の移ろいといった自然の力が加わり、常に新しい姿を見せます。同じ庭を見ても、人によって発見する美しさが異なり、それを共有することでさらに多様な価値が生まれる。これはまさに、病気や老化とともに歩む患者さんの人生と、それに寄り添う私たち専門職との関係に似ているのではないでしょうか。
在宅医療の現場は、この20年で大きく変わりました。以前は手探りの連続で、患者さんやご家族の声に耳を傾けながら、一緒によりよいケアを模索していました。やがて体系的な学びが広がり、総合診療や看護ケアのフレームワークが浸透し、多職種が共通言語で連携できるようになりました。合理化されたアセスメントや包括的な支援体制により、プロセスや仕組みの質は確かに向上しています。
しかしその一方で、最大のアウトカムである「患者のQOL」が本当に高まっているのか、という問いが残ります。生活の無数のバリエーションがパターン化され、医療化され、意思決定も「合理的なタイミング」に収斂していく。支援対象から外れた人や、標準に収まりきらない部分こそが、その人らしさを映す鏡であるのに、見過ごされてはいないでしょうか。
日本人は「赤信号でも律儀に待つ」ように、ルールを目的化しがちです。在宅ケアにおいても、フレームワークや計画の実行が目的化される危険性があります。しかし本来の目的は、患者さんの人生を支えること。庭園が思いがけない美しさを見せるように、日々の対話や気づきから、新たな可能性が生まれる瞬間を大切にしたい。
合理性とともに、柔らかな余白を許容すること。それが、日本庭園のように、規律とファジーさを兼ね備えた在宅ケアの豊かさにつながるはずです。