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<JUN’s letter>入院依存を減らす!日本モデルの可能性と課題
在宅医療の保険診療の1つの使命は「入院への依存をできるだけ減らす」こと。これは患者さんのQOL維持だけでなく、社会保障費の適正化という観点からも重要です。
海外の多くの国では、在宅医療は「在宅入院=急性期治療を自宅で行う」という入院代替の位置づけです。対して日本は、慢性期や終末期の健康管理に制度が特化しており、「急性期は入院すればよい」という前提に立っています。しかし、入院には大きな社会的コストが伴います。特に要介護高齢者では入院による機能低下が深刻で、当法人のデータでは死亡退院を含め34%が元いた場所に戻れていないという現実があります。
入院依存を減らすために、私は次の5つのポイントが不可欠だと考えています。
① 一次予防:定期的な訪問診療による予防的介入。薬物療法の適正化、栄養・口腔・リハビリの三位一体支援で急変リスクを抑えます
② 二次予防:早期発見・早期治療。緊急時24時間対応による早期診断・治療。自宅で治療を完結させる力を高めます
③ 三次予防:移行期支援=入院関連機能障害の最小化。入院が避けられない場合も早期退院を支援し、再入院や機能低下を最小化します
④ 在宅緩和ケア・看取り援助:不安や苦痛を和らげ、最後まで自宅で過ごせる選択肢を提供します
⑤ ACP、意思決定支援:急変時や最終段階で本人が納得できる選択ができるよう、日頃から信頼関係を築き、対話を重ねていきます
一方で、台湾では「Acute Care at Home(急性期在宅治療)」が試行中です。肺炎・尿路感染・蜂窩織炎を対象に、標準化されたプロトコルで自宅治療を進めています。ただし24時間対応はなく、休日夜間は救急搬送に依存。予防的介入やACPも十分とは言えません。だからこそ台湾は日本の在宅医療に注目しています。
台湾が導入を検討しているのは人頭払い制。日本の「在宅時医学総合管理料(在総管)」を参考に、継続的健康管理と24時間対応を包括しようとしています。私自身、台湾衛生福利部・中央健康保険署からの依頼で日本の制度とアウトカムを紹介する講演を行いました。強い関心を肌で感じると同時に、日本の在宅医療が世界的にも注目されていることを実感しました。
ただし、日本の現場では課題も残っています。医学管理といいながら「バイタル測定+処方」のみで予防的介入をしないケース。24時間対応を名乗りつつ実際は救急搬送指示だけの対応。退院直後の再入院率が高く、入院関連機能障害を「老衰」として看取ってしまう例。ACPを「家族で決めてください」と丸投げする現場。こうした姿勢が、制度の価値を活かしきれない原因になっていると感じます。
先人たちの努力でかたちづくられた日本の在宅医療制度は、世界から学ばれる水準にあります。その強みを十分に発揮できるかどうかは、私たち提供者次第。悠翔会としても、制度の理念を実践に落とし込み、「入院依存を減らす」使命を果たしていきたいと考えています。