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〈JUN’s letter〉“病院に行かない急性期”という選択肢。地域ケア計画の再設計を考える
日本の「入院」は、実は海外では自宅や施設で対応されることが多いケースを含んでいます。一般急性期入院患者の3分の1は85歳以上。重老齢化が進むほど病院で必要な処置は限定的になり、「自宅や施設で看るのは大変だから病院にお願いする」というレベルの入院も少なくありません。
入院がもたらすリスクと社会コスト
入院は社会的コストが高いだけでなく、要介護や認知症の高齢者の身体に大きな負担をかけます。10日間の入院が7年分の老化に相当するとの報告もあり、身体・認知・摂食機能の低下がしばしば見られます。ACPを通じて本人が「自宅で過ごしたい」と希望しても、それを支える体制がなければ実現は困難です。
「病院で治療」か「自宅で看取る」かの間に
在宅医療の役割は、この二択の間に「自宅で、本人にとって最適な範囲内で治療する」という選択肢を確保することにあります。頻繁な訪問を可能にする特別訪問看護指示や看護小規模多機能型居宅介護の泊まり機能を活用すれば、自宅や施設で急性期ケアを行うことも十分可能です。看護師常駐施設や訪問看護を組み合わせることで医療対応力を強化することもできます。
病院依存からの転換
日本は人口あたりの医師数は他国と大差ないのに、病床数は2〜5倍。1床あたりの医療密度が低下するのは必然です。2024年の規制緩和では、病院でも当直医師が院外からオンラインで指示することが認められましたが、これは特養と大差ありません。つまり病院に依存しなくてもケアできる領域は広がっているのです。
「地域医療計画」から「地域ケア計画」へ
今後必要なのは、病床配分にとどまらない「医療+介護+福祉」を一体的に考える地域ケア計画です。病院の持続可能性はもちろん重要ですが、病院が担ってきた機能を在宅や施設にシフトさせ、役割を再定義することが求められます。
私たちが大事にしたいのは、「病院を守る」のではなく、「急性期治療機能を地域に確保する」という発想です。そのために在宅医療や看護、介護、施設の機能強化を進め、病院と役割を補完し合うことが不可欠です。国籍や職種の違いを越えてチームの強みを組み合わせてきたように、医療と介護のリソースを柔軟に再配分することで、本人の望む生活を守りながら地域の医療を持続可能にしていけると考えます。