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「エンシュア」が処方できなくなる!? 医療費削減の裏で進む「栄養治療」崩壊の危機
■在宅医療ペディア■
低栄養対策の「武器」が奪われる
栄養ケアに関わるすべての人にとって、大事件とも言える事態が進行しています。 エンシュア・ラコール・イノラスといった「医薬品栄養剤(ONS)」の処方が、「経管栄養」と「術後」の患者に限定され、それ以外(経口摂取での栄養補助など)は保険適応外となる方針が示されたのです。
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なぜこれが「大問題」なのか
「食事が足りないなら、食事を増やせばいい」。そう単純に考える方もいるかもしれません。しかし、低栄養が進行すれば、そもそも食事を摂る体力や機能自体が低下します。 医薬品ONSは、単なる食事の代わりではありません。高濃度な栄養で一時的に「下駄をはかせ」、体力を回復させ、再び自分の口で十分な食事を摂れるようにするための「栄養治療」の手段なのです。
この選択肢が奪われ、全額自己負担となれば、経済的な理由で栄養治療を断念せざるを得ない患者さんが激増するでしょう。
「390億円」をケチって「1兆円」を失う?
医薬品ONSの市場規模は約390億円です。一方で、低栄養による超過医療費は少なくとも1兆円以上生じているという報告があります。 低栄養はサルコペニアやフレイルを進行させ、誤嚥性肺炎や骨折のリスクを高め、結果として高額な入院医療費を発生させます。 目先の薬剤費を削ることで、結果的に救急搬送や入院が増え、トータルの医療費はむしろ増大する。これは明らかに合理性を欠いた「悪手」です。
政策との「矛盾」と「逆行」
今回の制限案は、国の掲げる方針とも完全に矛盾しています。 成立したばかりの改正医療法の附帯決議では、入院を防ぐために「低栄養・サルコペニアに対する食事が普及するよう検討すること」と明記されています。また、厚労省自身も来年度予算案で「攻めの予防医療」として栄養対策の推進を掲げています。 推進すると言いながら、唯一の治療介入手段である医薬品ONSへのアクセスを制限する。アクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。
「経管栄養のほうが得」という歪んだ選択
さらに懸念されるのは、診療報酬の歪みが患者の選択を歪めてしまうことです。 かつて療養病床で胃瘻の点数が下げられた際、あえて患者にとって苦痛の大きい経鼻経管栄養が増加したという歴史があります。 今回も、「口から食べるリハビリをするより、経管栄養のままにしておいたほうが栄養剤が保険で出るから安く済む」という理由で、経管栄養からの離脱(=口から食べる喜びの回復)が阻害される患者さんが出てくる可能性があります。
声を上げ、選択肢を守ろう
低栄養への介入がようやく重要視され始めた今、この改悪は何としても食い止めなければなりません。 医薬品には食品とは異なる厳しい品質管理と安定供給義務があり、災害時にも被災地に届くという強みもあります。 患者さんの命とQOLを守るため、臨床栄養、リハビリ、在宅医療に関わる専門職の皆様、ぜひ一緒に声を上げていきましょう。