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地域に根を張るということ/稲次 忠介(悠翔会在宅クリニック船橋、院長)

■在宅医療の究み

在宅医療の現場で、私たちが大切にしているのは、決して特別な工夫や派手な取り組みではない。むしろ「当たり前のことを、当たり前に続ける」こと。

 

地域で診療を行う以上、連携先に偏りをつくらないことは基本だ。病院、訪問看護、介護事業所と広く、そして深く関わる。そのために、退院前カンファレンスには可能な限り参加し、医師だけでなく看護師やソーシャルワーカーも含めたチームで臨む。退院後の生活を見据えた対話は、書面だけでは決して補えない。

 

患者さんを知るとは、病名や検査値を把握することではない。その方がどんな仕事をし、何を大切に生きてきたのか。ご家族とどんな関係を築いてきたのか。そうした人生の背景に目を向けることで、医療のかたちは自然と変わってくる。
診察の場では、質問に必ず答えることを心がけている。わからないことはわからないと伝え、後日調べる、他の医師に相談する。その誠実さが信頼につながると信じているからだ。入室時には、笑顔で、元気よく、そして言葉はゆっくり。ときには同行するスタッフと軽い掛け合いを交え、場の緊張を和らげることもある。

 

こうした一つひとつは、決して難しいことではない。しかし、チーム全体で意識し、助け合いながら続けていくことで、雰囲気は必ず利用者さんに伝わる。信頼関係は、技術や制度ではなく、日々の姿勢から生まれる。
地域に根を張る在宅医療とは、特別な「何か」を足すことではない。当たり前を大切にし続ける、その積み重ねこそが究みなのだと思っている。

 

稲次 忠介(悠翔会在宅クリニック船橋、院長)

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