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「痛みをゼロに」と急がない──患者さんの“自分らしい生活”を守る症状緩和 / 田上恵太(悠翔会くらしケアクリニック練馬 院長)
■在宅医療の究み
「痛みを早くゼロにしてほしい」と訴えるがん患者さんに直面したとき、皆さんはどうお声がけしていますか? すぐに薬を増やして痛みを取ってあげたいと思いますよね。しかし、痛みの強さをゼロにしようと急ぐと、時に強い眠気や便秘、ひいてはせん妄といった副作用が生じ、かえって「一日中寝ていて食事がとれない」という望まない生活を招くリスクがあります。そこで、患者さんの「自分らしい生活」を守るために、僕が実践している痛みの評価とコミュニケーションをご紹介します。
痛みをゼロにすることはもちろん最終的な目標ですが、薬や治療効果の研究においても数日内で達成することは困難であることは明白とされており、まずは副作用を最小限に抑えながら段階的な目標を立てることが大切です。
■ 第一段階の目標設定:「どのくらいの痛みの強さなら、穏やかに過ごせますか?」
まずは患者さんと“今の痛みの強さ”を評価します。「Numerical Rating Scale(NRS)」を用いる場合、最初に「痛みは何点ですか?」と聞くのではなく、「0:まったく痛みがない状態 〜 10:想像しうる最強の痛み」であることを予め共有しましょう。次に、患者さんが「痛みがあっても日常生活に支障がない程度」を一緒に探ります。これを「Personalized Pain Goal(PPG)」と呼びます。「痛みと共にある生活」の中で症状緩和の目標設定をするために、「家事や仕事をするうえで」「夜眠るうえで」など、生活に焦点を当てます。そうすることで、患者さんも痛みの治療に関して具体的な見通しが立つでしょう。
このアプローチは、だるさや息苦しさなど他のつらい症状にも応用でき、「Personalized Symptom Goal(PSG)」と呼ばれます。「どのくらいの症状の強さなら、おだやかに過ごせますか?」と各症状において目標設定を行い、実際に自身が設定した目標が段々と達成されていくと、生活の質(QOL)が改善していくことが、僕らが行った研究でも証明されています。
「数値」だけを追うのではなく、患者さんと共に「生活」に則した目標設定を行う。明日からの診療やケアで、ぜひ患者さんと生活に則した症状緩和の目標設定を行ってみてください。

田上恵太(悠翔会くらしケアクリニック練馬 院長)
【参考文献】 Tagami K, et al. The association between health-related quality of life and achievement of personalized symptom goal. Support Care Cancer. 2020;28(10):4737-4743. Tagami K, et al. Cancer Pain Management in Patients Receiving Inpatient Specialized Palliative Care Services. J Pain Symptom Manage. 2023.