ニュースレター
「治せなかった」の先に-患者さんと共に「日常」を編み直す / 平賀 孝太(悠翔会ホームクリニック知多武豊、院長)
■在宅医療の究み
「先生が来てくれてよかった」。 訪問診療の帰り道、ときどき患者さんやご家族からいただくそんな言葉で、日々の疲れや緊張がふっと軽くなる気がします。訪問診療に携わって二年ほどになりますが、このうれしさには、いまも慣れることがありません。
不思議なのは、病状としては決して楽ではない方ほど、前向きな言葉を口にされることです。
「今日は桜がよく見えた」「孫が来てくれてね」。そんな会話を交わしているうちに、私のほうが励まされていることも多いと感じます。
私はもともと、脳神経外科医として救急の現場に立っていました。そこでの医師の役割は、何よりも「病を治すこと」です。
ただ、どれだけ力を尽くしても、麻痺が残ったり意識が戻らなかったりと、思うようにいかない現実もありました。そして病院という場所では、そこから先の患者さんの暮らしを十分には追いかけられませんでした。
在宅の現場に来て、私はようやくその「続き」に出会えた気がしています。 障害を抱えながらも、自分らしく暮らしている方。できなくなったことではなく、今日できたことを大切にされている方。急性期の現場で「治せなかった」と感じていたものの向こう側に、豊かな生活が確かに続いていたのだと、いま改めて実感しています。
在宅医療はよく、「多職種で支える」と言われます。けれど最近、単に「支える」だけでは少し足りないのではないか、と感じるようになりました。主役は医療者ではなく、あくまでその方ご自身の暮らしです。わたしたちの仕事は「支える」こと以上に、その方がその方らしく過ごせる「日々の営み」を、ご本人やご家族、そして地域のチームのみんなで一緒につくっていくこと。 そう思うようになりました。
「先生が来てくれてよかった」。 これからもそう言っていただけるように、その人がその人らしく過ごせる場を、スタッフや連携先の皆さまと共に、丁寧につくっていきたいと思っています。
平賀 孝太(悠翔会ホームクリニック知多武豊、院長)