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〈在宅医療ペディア〉【医療格差に挑む最先端技術!】スマートカメラが離島の「見えない眼病」を捉える

超高齢社会を迎える日本において、医療格差の解消は喫緊の課題です。特に、眼科のような専門医療は、医師の地理的偏在や高齢者の通院困難といった理由から、十分なケアが行き届かない地域が少なくありません。パナウル診療所院長の小林真介が携わった今回の論文は、こうした課題にスマートな解決策を提示する画期的な研究です。
「見えない眼病」を浮き彫りにした離島での実態
本研究は、鹿児島県にある与論島を舞台に、スマートアイカメラ(SEC)を用いた遠隔眼科スクリーニングの有効性と、離島における眼疾患の有病率を調査しました。対象となったのは与論島民79名です。SECで撮影された前眼部の画像を、遠隔地の眼科医が診断するという、まさに遠隔医療の最前線をいく試みです。
驚くべきは、その結果が浮き彫りにした「見えない眼病」の深刻さです。島民の68.4%に白内障、15.1%に眼瞼下垂が確認され、3.2%には翼状片がみられました。60歳以上に限定すると、白内障は84.5%に認められました。これらの疾患は、進行すると視力低下や生活の質の著しい低下を招きますが、初期段階では自覚症状が乏しく、医療アクセスが限られる環境では見過ごされがちです。このデータは、眼科専門医が少ない離島において、多くの住民が潜在的な眼病を抱えている現実を突きつけました。
在宅医療・地域医療におけるSECの可能性
本研究で活用されたSECは、非専門家でも簡単に操作でき、高品質な画像を撮影できるのが大きな特徴です。これにより、眼科医が常駐しない地域でも、効率的にスクリーニングを行い、潜在的な眼疾患を発見できる可能性が示されました。
この技術は、離島だけでなく、在宅医療や訪問診療の現場にも大きな恩恵をもたらすでしょう。悠翔会が目指す「住み慣れた場所で最期まで安心して過ごしたいと願うすべての人の想いに応える」在宅医療において、高齢患者さんの眼の健康は生活の質を大きく左右します。通院が困難な患者さんでも、訪問看護師や在宅医がSECを使ってスクリーニングを行えば、眼科専門医による遠隔診断が可能になり、早期発見・早期治療へと繋げることができます。これは、患者さんのQOL向上だけでなく、ご家族の負担軽減にも貢献します。
医療格差を「テクノロジーの力」で乗り越える
この研究は、限られた医療資源の中でも、テクノロジーを賢く活用することで、地域や環境による医療格差を埋められることを明確に示しています。SECのようなスマートデバイスは、専門医の「手足」となり、これまで届かなかった場所へ医療を届ける架け橋となります。
悠翔会では、ICTを活用した効率的な在宅医療の提供にも力を入れています。今回の研究で示されたSECの可能性は、まさに当法人が目指す「チーム在宅医療の理想の追求」 と合致するものです。今後、このような先端技術が在宅医療の現場で広く活用されることで、より質の高い医療サービスを、より多くの患者さんに提供できるようになることが期待されます。
慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業「OUI Inc.」の携帯型デバイスSmart Eye Camera(SEC)を用いた当研究は、OUI Inc.のCEOである清水映輔先生(眼科専門医)の監修のもと、与論島で鹿児島大学医学部学生の黒岩露敏さんが主体となって行いました。小林も黒岩さんの研究をお手伝いさせていただいています。
今回の研究は、スマートアイカメラが離島の眼科医療格差を解消し、多くの見過ごされた眼病を発見できる有効なツールであることを示しました。この技術は、通院が困難な在宅患者さんにとっても、質の高い眼科ケアへのアクセスを可能にし、QOL向上に貢献する未来を切り開くでしょう。悠翔会も、このような先端技術の導入を検討し、在宅医療の質のさらなる向上を目指していきます。