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医学的に正しいだけでは届かない――ご家族と向き合い知った言葉の重み
■在宅医療の究み
在宅医療を始めて間もない頃の、今でも忘れられない出来事があります。
ある末期がんの患者さんを担当していたときのことです。病状の進行とともに食事がほとんど摂れなくなり、点滴を続けていました。しかし、次第に全身の浮腫が目立つようになり、点滴を続けることがかえって患者さんの負担になるのではないかと考えました。
そこで私はご家族に、点滴を続けることで苦痛が増える可能性があること、そしてこの段階では、点滴を続けたとしても、予後への影響は数日程度だろうと説明し、点滴の中止を提案しました。
すると、ご家族から思いがけない言葉が返ってきました。
「先生、私たち家族にとっては、その“数日”が大切なんです」
その言葉を聞いたとき、ハッとさせられました。
医学的な判断とご家族が願う時間のギャップ
医師としては、医学的に患者さんの負担を減らすための提案をしたつもりでした。しかし、私はいつの間にか、予後を「数日」という数字だけで捉えてしまっていたのだと思います。
医療者にとっての「数日」は、医学的には大きな違いではないかもしれません。しかし、ご家族にとっては、大切な人ともう少し一緒に過ごせる、かけがえのない時間です。その時間をどう捉えるかは、医療者と患者さん、ご家族とでは大きく異なることがあります。
終末期医療において大切な患者さん・ご家族への言葉選び
もちろん、患者さんの苦痛を増やしてまで点滴を続けることが正しいとは限りません。医学的に適切な選択肢を提示することも、医師の大切な役割です。ただ、医学的に正しいことを伝えるだけでは十分ではなく、その言葉が患者さんやご家族にどう届くのかまで考える必要があるのだと気づかされました。
それ以来、人生の最終段階にある患者さんやご家族とお話しするときには、言葉の選び方をより意識するようになりました。
医療者にとっての「数日」が、ご家族にとってはかけがえのない時間かもしれない。
あの日のご家族の言葉は、今でも私のなかに残っています。
