ニュースレター
〈在宅医療の究み〉満足度の高い”伴走支援”で主体性を支える/鳥越 桂(くくるホームケアクリニック南風原、院長)
満足度は、「期待」と「現実」のあいだに生じる差で決まると言われ、期待通りであれば「満足」、下回れば「不満」、そして期待を超えたときに人は「感動」となります。診療の現場で「満足」や「感動」をどう生み出すのか。私自身も明確な答えを持っているわけではありません。
医療者として良質と思われる医療を手厚い接遇で提供しても、それが患者さんやご家族にとって望ましいとは限らず、独りよがりに終わることもあります。かといって、提供する医療の内容すべてを提供される側の要望通りとすることも、違和感があり、良識ある判断とはいえません。
私の場合、診療の場で「こうすべきです」と安易に言い切らないようにしています。患者さんやご家族、施設職員、地域の多職種の意向をうかがいながら、複数の選択肢を示し、その中から選んでいただくよう心がけています。
誰しもそうですが、押しつけられたものよりも自ら選んだものの方が自分の考えや好みに近いはずです。さまざまな制約を医師から一方的に与えられれば、「コントロールされている」と感じても仕方ないのではないでしょうか。ただし、提示する選択肢は私が医療者として許容できる範囲内であり、見方によっては、私が主導しているとも言えなくはありません。
提示した選択肢から外れる要望が出たときは、まず相手の主体性を尊重することを意識しています。人は、自分の主体性が脅かされると感じた瞬間に、無意識に抵抗するものだからです。
意見が食い違う場面では、「自分が正しく、相手が間違っている」ことを示したくなりがちです。しかし、相手の考えを否定するほど、新たな反論が生まれ、関係はかえって硬直してしまいます。相手を変えようとする前に、その考えに至った背景や、大切にしているものに目を向けること。そこに共通の動機を見い出せたとき、関係は対立から協働へと変わっていきます。われわれ医療者はあくまでも伴走者であり、患者さんやご家族へ”伴走支援”しているのだという意識付けが重要です。
このような姿勢は、医療や介護に限らず、あらゆる対人支援の場で通じるものだと思います。満足や信頼は、特別な方法から生まれるものではありません。日々の関わりの中で、相手の主体性をどのように捉え、どのように尊重しているか。その積み重ねが、関係性を形づくっていきます。
満足度を考えることは、診療の質そのものを問い直すことでもあります。独善に陥らないよう、自らを省み続ける姿勢を大切にしたいと思っています。
※本記事は、2022年8月18日に「診療満足度調査レポート」サイトに掲載したコラムをもとに、内容を一部加筆・再編集してお届けしました。