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〈在宅医療の究み〉信頼という花を育てる/粟野 葉子(悠翔会在宅クリニック稲毛、看護師、リーダー)
夏の間、マンションのベランダで、小さな朝顔を育てていました。
毎日水をやり、陽の当たり具合で鉢を動かし、肥料を加え…咲いたときの喜びはひとしおですが、育てるには手間と時間がかかります。
もし朝顔が「もう少し水をほしい」と教えてくれたら、もっときれいに咲かせられるのに——そんなことを思うことがあります。
人との関係も同じです。気持ちを伝え合うことができれば良い関係が築けるけれど、実際には思うようにいかない。
特に、在宅医療の現場では患者さんやご家族と出会ったその日から、深い信頼関係を築く時間は限られています。だから私は、初めて訪問する日こそ丁寧に観察し、あいさつの声のトーンや距離感を少しずつ調整します。
ほんの小さな変化ですが、「話してみよう」と思ってもらえるように、意識してかかわります。そして何よりも、悠翔会の理念である「かかわった人すべてを幸せに」という「この人を幸せにしたい!」という思いを大切にしています。
あるとき、10歳の脳腫瘍の女の子の在宅支援にかかわりました。
当初は無表情で、ほとんど言葉を交わさなかった彼女。
それでも訪問を重ね、少しずつ関わるうちに、ある日「先生、看護師さん、ありがとう」と小さな声で言ってくれました。
その瞬間、心が通じ合ったような気がしました。
信頼のない関係の上には、何も築くことはできません。
わたしたちが日々行っているケアは、目の前の業務をこなすためではなく、未来の信頼を育てるための時間。
声をかけ、耳を傾け、表情や沈黙の奥の思いを受け止める——その積み重ねが、ようやく花を咲かせます。
最近では、心を通わせられたと感じる場面が少しずつ増え、とても嬉しく感じています。
朝顔が静かに咲くように、信頼という花を、これからも丁寧に育てていきたいと思います。
粟野 葉子(悠翔会在宅クリニック稲毛看護師、リーダー)