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〈在宅医療の究み〉未来の医師が学んだ、患者さんとの向き合い方/椎名 美貴(悠翔会訪問看護ステーション東京 管理者)

悠翔会訪問看護ステーション東京では、毎月、慶應義塾大学医学部5年生の地域医療研修を受け入れています。

 

外来や病棟での経験はあっても、訪問看護は教科書でしか知らない学生がほとんど。
「病院で診てきた患者さんが、自宅でどう過ごしているのか想像できない」「看護師と介護職の仕事の違いがわからない」――そんな現状から研修は始まります。研修に来られる学生には「この研修で何を得たいのか?」の問いかけから訪問を開始します。
在宅医療人を育む研修でまず大切にしているのは、この問いから始めること。

 

ただ研修に参加してもらうのではなく、目的を明確にしてもらうこういった問いから始めることで、一人ひとりに考えて参加してもらうことができます。
他にも「訪問看護のイメージは?」「病棟との違いは?」「介護と看護の違いは?」など問いかけることを大切にしています。
また、学生自身が目的意識を持って現場に入るよう、指導教員ともメールや電話で事前にやり取りを重ね、学生のフィードバックをもらいながら同行内容も工夫します。

 

独居でベッドから一人では離れることもできない難病の患者さんでも、自宅では生き生きと自分のくらしを楽しんでいます。学生には現場でその様子を見てもらいます。

 

終了後に30分ほどかけて感想を聞き取ります。
「同行前と後での‟患者‟のイメージは?」「今後の診療に活かしたいことは?」
学生たちは言葉を探しながら、自分なりの答えを見つけていきます。

 

短期間の研修ながら、後日届くレポートには、学生が得た深い学びが綴られています。
「看護師と患者さんのコミュニケーションは重要。医師として診療に携わるときには看護師からも情報を得ることで患者さんの理解につながる」
「患者さんの背景・本音・目的に目を向けていないと、治療・医療行為だけしてもその人を満足させられず、望まない結果に繋がることがある」
「必ずしも『患者の目標=本音』とは限らないということ。医師として意識したいのは、目的=治療の完遂ではなく、目的=患者の納得のいく目標をさまざまな視点から考察・探求し、他職種と共有し定められるようになること」

 

こうした言葉は、看護師にとってもケアを見直すきっかけになります。
そして何より、この経験をした学生が将来、患者さんの人生や本音に寄り添い、看護師の視点を尊重しながら診療する医師になってくれたらーー。地域医療の未来は、きっともっと豊かになるはずです。
現場に入る前には学生へ問いかけ、実際の現場では患者さんに真摯に向き合う姿勢を見せる。その積み重ねにより、未来の医師たちの中に、“患者の本音に寄り添う医療”という気づきの種がまかれています。

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