沿革

住宅医療との偶然の出会い

住宅医療との偶然の出会い

2006年3月、当時大学院生だった佐々木は、偶然、新宿区内の在宅医療のクリニック「フジモト新宿クリニック」に非常勤で勤務することになりました。
これまで急性期病院での臨床経験しかなかった佐々木にとって、人生の大きな転機になりました。
クリニックに入職した当初は、目の前の人を「治せない」という居心地の悪さに戸惑いがありましたが、患者さんや在宅医療にかかわる様々な職種の方々との出会いを通して、「支える医療」という新しい価値基軸に気づかされることになりました。
病気が治らなくても、すべてを失うわけではない。身体を治すことはできなくても、適切な支援があれば、その人らしい生活や人生を生きることができる。
急性期医療のようにガイドラインやプロトコールに従うのではなく、医師として、そして人として、患者さんとの自由な対話の中で、ともに生きていくための医療を一緒につくっていく。新しく出会った「在宅医療」に大きな魅力を感じるとともに、この領域で仕事をしていきたいと強く思うようになりました。

東京・千代田区に最初の
在宅療養支援診療所を開設

自分の力で自分の思う理想の在宅医療を実現してみたい。その思いは日に日に強くなり、同年8月大学院を退学、東京都千代田区に最初の在宅療養支援診療所「MRCビルクリニック」を開設しました。
当初は東京23区全域を診療圏にしようと漠然と考えていました。千代田区をクリニックの開設地に選んだのは、ここからは半径16キロで23区が概ねカバーできたからです。幼少期から大学まで茨城県で過ごした佐々木にとって、16キロという距離はさほど遠くないイメージでしたが、この目論見はほどなく覆されることになります。
クリニック開設にあたっては、まずは最低限の機能性を確保することを目指しました。
開設当初のクリニックの診療理念は次の3つでした。

在宅総合診療/様々な患者の医療ニーズに、できるだけ在宅で対応できること。

確実な24 時間対応/いつでも電話がつながり、必要があればいつでも迅速に往診できること。

患者さんの価値観を大切にする医療/患者さんの想いに寄り添う医療を提供すること。

この3つの診療理念を旗印に、医師1 名、准看護師1名で在宅医療をスタートしました。
その後、看護師・理学療法士・作業療法士などが加わり、訪問看護・訪問リハビリテーションも本格的に開始、小さいながらも総合的な在宅医療が提供できる体制を整えることができました。
この3つのコンセプトのうち、特に「確実な24時間対応」は地域に歓迎され、病院や介護事業所からの患者紹介は順調に増えていきました。しかし紹介される患者の多くは地域の在宅クリニックでの対応を断られたケースで、終末期ケアや医療依存度の高い方が多く、クリニックはほぼ毎日24 時間フル稼働状態で動いていました。

在宅医療の「チーム医療」化
専門医による診療支援開始

在宅医療の「チーム医療」化専門医による診療支援開始

患者数の増加に応じて、主治医を担当する常勤内科医の確保を進めていきました。
主治医はプライマリケア全般に対応しますが、「在宅総合診療」を実現するためには、プライマリケア領域の対応だけではカバーできないケースも存在します。そこで非常勤専門医の確保にも取り組みました。
開業翌年には、整形外科・リハビリテーション科・精神科・麻酔科・形成外科・皮膚科・東洋医学(漢方)の専門医が在宅診療チームに加わり、より高度な在宅診療ニーズに対応できるようになりました。その後、眼科(2008年)・歯科(2010年)などの専門医がチームに加わりました。
主治医の対応範囲を超える専門領域は、それぞれの分野の専門医が副主治医として関わることで、患者は在宅でワンストップの診療が受けられる体制になりました。
また、摂食障害、認知症サポート、緩和ケア、褥瘡治療など、主治医と副主治医(専門医)、多職種がチームで診療を行うことで、チームとしての診療対応力が高まるのみならず、主治医にとっても専門診療スキルの向上が期待できると考えています。

「医療法人社団悠翔会」の誕生
法人化と複数拠点化

「医療法人社団悠翔会」の誕生法人化と複数拠点化

東京23区をカバーするという当初の計画に基づいて、広域からの在宅患者の受け入れを進めてきましたが、在宅患者数が増加してくると、交通事情などにより訪問診療の効率が悪化し、また迅速な緊急対応も難しくなってきました。そこで、患者さんの多いエリアにサテライトクリニックを配置し、23区という大きな診療圏を順次分割していく方針としました。
2008年、法人化とともに新宿区早稲田にサテライトクリニックを開設。2009年には品川区大井、葛飾区金町にそれぞれサテライトクリニックを開設し、都心の東京都千代田区を中心に城西・城南・城東の各エリアを4つのクリニックで分担する体制を整えました。4クリニックは、6名の常勤医師+7名の非常勤医師により一体運営することで、フレキシブルでフットワークの軽い診療体制を構築しました。これが現在の医療法人社団悠翔会の骨格となっています。

365日診療体制の確立
土曜日・日曜日診療ルートの開設

平日は仕事をしている家族から、診療に同席したいという声が聞かれるようになっていました。
わたしたちも在宅療養支援においては家族とのコミュニケーションの重要性を感じていました。そこで家族の休みに合わせて、土日に定期診療ルートを開設することにしました。
もともと、土曜日・日曜日は臨時往診の依頼も多く、日勤帯の365日診療体制を確立することで、週末の緊急対応にもより安定的かつ迅速に対応できるようになりました。
当時のスタッフの多くは土日週休2日という前提で雇用契約を結んでいましたが、ほとんど全員が週末診療の必要性と重要性を理解してくれました。「患者さんのニーズが最優先」という価値観が共有できていることを感じ、とても嬉しかったことを覚えています。

摂食嚥下サポート
歯科診療部門の開設

摂食嚥下サポート歯科診療部門の開設

開設とほぼ同時に医科歯科連携に取り組みました。フジモト新宿クリニックでの勤務時から、在宅患者の誤嚥性肺炎や摂食障害による入院や在宅療養中止、そして死亡を経験してきたからです。
力を貸して下さったのは日本大学歯学部・摂食機能療法学講座の植田耕一郎教授のチーム。在宅で嚥下内視鏡を行い、詳細なレポートとともに、介護者への食事介助までしっかりと対応していただき、多くの好事例を共有することができました。
しかし在宅医療の現場では、より多くの患者が口腔機能ケアを必要としていました。大学病院のチームだけに依存することの限界を感じ、2009年、東京医科歯科大学の歯科医師チームの協力を経て、悠翔会在宅クリニック早稲田に歯科・口腔ケアチームを開設。訪問歯科診療・訪問口腔衛生指導を開始しました。
口腔機能へのアプローチは、食事を禁止・制限されていた多くの患者にとって、食べる喜びを取り戻すきっかけとなりました。また、低栄養の改善、誤嚥性肺炎の再発予防に対しても確実な手ごたえを感じることができました。
そして、この歯科チームの活動は、その後「在宅NST」へとつながっていきます。

診療と経営の分離
運営部門の集約とMS法人の設立

診療と経営の分離運営部門の集約とMS法人の設立

クリニックを複数展開していく中で、診療運営の全体的な非効率さが目立つようになってきました。そこで、悠翔会全体で人的・物的資源を有効活用することを目的に、4つのクリニックで共有できる機能を集約し、「在宅医療部本部」を設置しました。
同時に、診療品質と経営品質の両立を目指し、医療法人社団悠翔会から管理部門を切り離し、MS法人(株式会社ヒューマンライフ・マネジメント)を設立。医療法人は診療品質の向上に、株式会社は診療支援と経営効率の向上に、それぞれが集中できる体制を目指しました。
在宅医療部本部とMS法人は機能を統合し、汐留に合同でオフィスを開設。リーマンショックのさなかでもあり、客室稼働率が低下していた都心の好立地のホテル内に拠点を構えることができました。

患者情報共有プラットフォームの開発
クラウド型電子カルテシステムの開発

悠翔会は開設当初から電子カルテを使用していましたが、それは大手ベンダーが提供する一般的な外来クリニック用のものでした。インターネットとVPNでつないで在宅医療用として使っていましたが、その使い勝手は非常に悪いものでした。また医療介護連携、書類作成、訪問スケジュール管理、衛生材料の準備など、在宅医療特有の業務には対応できていませんでした。患者データベースもクリニックごとに分離しており、これは複数のクリニックを一体運営していく上では大きな障害でした。そして医師数・スタッフ数の増加によってライセンス料・通信コストも指数関数的に増大しつつありました。
既存システムの拡張性と将来性の限界を感じ、2010年10月、電子カルテシステムの独自開発に着手しました。
デバイスを選ばないクラウド型電子カルテシステムに、診療支援機能・経営支援機能を実装し、文書類もすべて電子化してアーカイブ、多職種連携にもスムースに応用できるよう工夫しました。
当初は外部のシステム会社と開発を進めましたが、診療現場の意見をリアルタイムに開発に反映させること、そして将来的には汎用性の高いシステムとして法人外の在宅療養支援診療所でも活用してもらえることを視野に、新たにシステム会社(在宅医療情報システム株式会社)を設立し、単独開発の方針に切り替えました。
在宅医療に最適化したクラウド型電子カルテシステムHOMISは、医師の診療外業務を最小化し、院内外の多職種をしっかりとつなぎながら、現在も毎月バージョンアップを続けています。

施設在宅医療への参入
「もう一つの在宅医療」への取り組み

わたしたちは設立以来、居宅患者への在宅医療に専念してきました。しかし、2011年10月、施設診療への取り組みを始めることになりました。埼玉県川口市に開設された高度医療対応型特定施設(らいふ川口)のテナントとしての誘致を受諾し、連携医療機関としての診療を開始したのです。
重度ケアへの対応を前提に看護師が24時間配置されたこの施設には、医療依存度の高い方、緩和ケアが必要な方が多く入居されてきます。経管栄養や中心静脈栄養、吸引や在宅酸素のみならず、人工呼吸器、気管切開、輸血、緩和ケアなど、医療依存度の非常に高い方々に対して、施設の看護職・介護職、そして連携薬局と密に連携した在宅医療を提供し、現在に至るまで非常に高い看取り率を維持しています。
ここはわたしたちにとっては施設における多職種連携の最初の学びの場となりました。

施設在宅医療に対するわたしたちの姿勢
施設在宅医療のあり方についてはさまざまな議論があります。しかしわたしたちは、施設在宅医療は診療の品質と効率を両立できる重要なフィールドであると考えています。
施設には在宅医療を必要とする高齢者が集住しています。居宅のように一軒ずつ車で移動する必要がありません。そして入居者に関わる多職種メンバー(ケアマネジャー・看護師・薬剤師・ケアスタッフ)が固定されています。居宅のように患者ごとに関わるチームメンバーが異なるということもありません。
在宅医療の人的リソースが慢性的・絶対的な不足状態にあることを考えると、移動効率の良さ、そして連携の容易さという施設のアドバンテージは圧倒的に大きいと思いますし、この効率のよさをしっかりと診療の質に反映していく必要があると思います。
施設の多職種と目標を共有できれば、チームで共有する患者数が多い分、居宅よりも相対的に小さなエネルギーで、大きなアウトカムを期待することができます。ポリファーマシーの改善、認知症ケアの改善、施設看取り率の上昇など、具体的な成果を定量化することも容易です。
施設(高齢者住宅)という療養場所において在宅医療が果たすべき役割は非常に大きいと考えており、施設在宅医療は、在宅医療に特化したクリニックとしてのスキルと経験を、より効果的に生かせる領域であると認識しています。

特別養護老人ホームと在宅医療
わたしたちは現在複数の特別養護老人ホームにおいて配置医師を担当しています。
特養には終の棲家としての役割が期待されていますが、現状、看取りに対応できている施設は多くありません。その大きな要因の1つが医療との連携の難しさにあると考えています。
特養には終末期のがん患者以外には訪問診療という形で入ることができず、基本的には契約の中で、施設の入居者の健康管理を支援するという形になりますが、わたしたちは自らの在宅医療のリソースを活用し、特養での療養支援・看取り援助においても、そのほかの施設診療と同様の対応で、積極的に協力していきたいと考えています。

アウトカムによる診療品質の管理
診療成果の可視化とフィードバック

わたしたちはよりよい在宅医療を提供するために日々努力しています。
しかし「よい在宅医療」とは、どのようなものなのでしょうか。
在宅療養支援においては、全般的にプロセスそのものが重視されてきました。しかし、よい在宅医療を定義するためにはアウトカムを意識する必要があると考えました。
そこでわたしたちは「よい在宅医療」を次のように定義し、具体的な目標を設定し、その達成のために努力してきました。

  1. 自宅(施設)で看取れること

    在宅での看取りを実現するためには、意思決定支援やアドバンスケアプランニングを含め、しっかりとした療養支援が必要です。また看取りを支えるのは多職種です。多職種連携ができていなければ看取りはできません。
    わたしたちは、在宅看取り率は、その両方を同時に評価しうるもっとも重要な指標であると考えています。在宅療養中の患者の多くは在宅看取りを望んでいます。本来は100%を目指すべきなのかもしれませんが、予期せぬ入院により在宅療養が中断するケース、家族介護力などにより在宅療養継続が困難になるケースも考慮し、70%という看取り率を1つの目安としています。

  2. なるべく入院せずに在宅で過ごせること

    高齢者は人生の最終段階において入退院を繰り返し、徐々に衰弱していきます。そして入院は、サルコペニアを進行させ、身体機能・認知機能を低下させる要因にもなります。再入院のリスクを下げることは在宅医療の重要な使命ですが、そのためには予測できるリスクに予防的に対処する必要があります。残存機能の適切な評価と、それに応じた多職種による支援をコーディネートする力が求められます。わたしたちは、全療養期間に占める入院日数の割合、退院後から再入院までの期間を定量化し、入院の依存率を減らすための効果的な介入を模索しています。

  3. 患者・家族が在宅医療に満足していること

    在宅患者の多くは、病気や障害の治癒が期待できず、最終的には死を迎えるという結末を変えることもできません。そのため治療成績による評価は難しいと考えました。そこで、わたしたちの在宅療養支援のプロセスに対する評価を定量化することを試みました。
    2011年から毎年1回、全患者(家族)およびその患者と関わる介護事業所(居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、地域包括支援センター、施設運営者・施設看護師)に13項目のアンケート調査を実施、在宅診療に対する意見や要望についても寄せていただいています。

  4. 地域から必要とされる存在であること

    悠翔会では新規患者のほぼ100%が病院または介護事業者からの紹介です。
    地域には数多くの医療機関が存在し、在宅医療を提供しているところも少なくありません。地域から必要とされないのであれば、わたしたちはその地域に存在する理由がありません。患者紹介数(特に紹介される居宅患者数)は、わたしたちに対する地域のダイレクトな評価そのものであると考えています。
    地域から必要とされるためには、地域のニーズを理解し、そのニーズに応えられなければなりません。そのために必要なのはフィールドワークだと思います。スタッフ一人ひとりが、自ら地域とのインターフェイスとなり、多職種連携・病診連携を通じて自らがどうあるべきかを考え、行動できることが重要であると思います。

これらの指標はクリニック単位で(患者満足度については医師単位で)算出し、それぞれのクリニック(医師)に個別にフィードバックしています。改善が必要と考えられる部分については、具体的な行動計画や達成目標を設定し、患者・家族および関係する事業者にネガティブデータも含めすべてディスクロージャーしています。
ただ漫然と在宅医療を提供するのではなく、何のために在宅医療をしているのか、常に意識していくことが大切だと考えています。

診療圏の拡大
首都圏ドーナツ地帯への拠点展開

診療圏の拡大首都圏ドーナツ地帯への拠点展開

2011年、埼玉県川口市へのクリニック開設を皮切りに、首都圏郊外のドーナツ地帯へのクリニック展開を本格的に開始しました。地域の介護事業者からの要請に応じる形で、埼玉県越谷市(2012年)、神奈川県川崎市(2013年)、千葉県柏市(2015年)と、順次クリニックを開設、東京23区と隣接する三県をカバーする現在の形になりました。
多様なエリアでの診療活動を通じて、地域性による在宅医療へのニーズの違いを学ぶとともに、それぞれの地域に最適化した在宅医療を模索していくことになりました。越谷市では24時間対応への依存度の高い重難度ケースを中心に、川崎市では精神科診療への対応力を強化するとともに0歳児の小児在宅医療まで、柏市では施設療養支援から末期がんまで幅広く対応しています。
診療圏の拡大は、潜在的な成長余地を大きくする一方で、スタッフ数やクリニック数、そして連携する法人外事業所の増加によりマネジメントが複雑化していきます。わたしたちの診療圏の適正規模は、診療品質が確実に管理でき、スケールメリットが生かせる範囲内であると考えています。

診療圏の細分化
地域密着性とフットワークの確保

診療圏の拡大を進める一方で、同時に進めてきたのが診療圏の細分化と地域密着性の確保です。
特に都心部は人口が密集しており、連携パートナーである介護事業所や病院も密に存在しています。多職種連携を効果的に実現するためには、地域包括ケアシステムの地域単位(中学校区)を意識する必要があります。また、特に都心部は、車での移動に時間がかかるため、クリニックから離れた場所で療養している患家は、緊急対応の遅れなどで不利益を被る可能性もあります。個々のクリニックの診療圏は、ある程度小さく絞り込んでいく必要があります。そこで、わたしたちは既存の在宅患者の分布に応じて、診療圏の再検討を進めています。

現在、在宅患者の多いエリアには新たに診療拠点を開設し、地域密着性を高めていくことにしました。
足立区千住(2012年)、港区新橋(2015年)、渋谷区代々木八幡(2016年)、練馬区新桜台(2018年)、墨田区東墨田(2019年)に順次サテライトクリニックを開設、それぞれ地域と密な関係づくりに取り組んでいます。
一方で、クリニックから遠く、かつ担当患者の少ない地域からは徐々に撤退を進めています。当該地域からの新規の患者受け入れを停止するとともに、その地域で連携する在宅医療機関に診療を順次引き継がせていただいています。
診療圏の細分化により、現在、東京都内の8クリニックにおいては半径3キロ圏、郊外の4クリニックにおいては半径8キロ圏に、在宅患者の95%が分布する形となっています。また、これは訪問診療の効率化(医師の拘束時間に占める診察時間/移動時間比の向上)にも大きく貢献しています。

多職種協働で「地域を1つのチームに」
在宅医療を始めて誰もが実感すること。それは「在宅医が一人で解決できる問題は少ない」ということではないでしょうか。医師でなければできないことはもちろんあります。しかし「生活を支える医療」を支えるのは、実は医師ではなく多職種であり、地域住民なのです。このことはわたしたちにとって、この10 年で最大の学びだったかもしれません。
多職種が協働していく上で、顔の見える関係は重要です。専門職として専門性を磨くことも必要です。
しかし最も大切なのは、専門外領域における課題の広がりと、自分以外の専門職の役割を理解することではないでしょうか。そしてチームとして協働していくためには「目的の共有」、そして「課題意識(課題が存在しているという認識)の共有」、「課題解決に向けてのプロセスの共有」が必要になると思います。

わたしたちは、地域の多職種と顔の見える関係をつくるとともに、この「3つの共有」のために、それぞれのクリニックで定期的な勉強会を開催してきました。当初は医学知識を学ぶための講義形式のものが中心でしたが、徐々にワークショップ形式に移行し、参加者の主体性も高まってきました。千代田、葛飾、足立、品川、川口など、悠翔会がクリニックを展開する各地域で開催された勉強会は250回を超え、延べ18000名以上が参加しています。これらの勉強会の多くは、当初は悠翔会が主催または共催していましたが、現在は「ケアカフェ」という形に引き継がれ、それぞれの地域の参加者によって主体的に運営されています。

美味しい果物を収穫するために大切なのは「畑づくり」です。在宅療養支援も同じだと思います。
在宅療養支援における畑づくりとは、安心して在宅療養ができる地域環境づくりであり、そのためには、地域の多職種と連携し、畑をつくり、守ることで、初めてその成果を共有することができるのだと思います。
在宅医療の仕事は訪問診療(収穫)+地域連携(畑づくり)。わたしたちはたわわに実った美味しい果実を横取りするような在宅医療ではなく、地域とともに学び、ともに成長する在宅医療を目指していきたいと思っています。

持続可能な24時間対応体制の確立
救急診療部の設置

24時間の確実な緊急対応は悠翔会の設立当初からの診療理念の1つであり、同時に在宅医療の品質を左右する重要な要素であることから、設立以来、診療部長として佐々木が責任を持って夜間対応を担当し続けてきました。
しかし患者数の増加に応じて夜間緊急対応の頻度も増大し、個人で24時間対応を続けることが体力的な限界に達しつつありました。また夜間対応による医師の疲弊は、日勤帯の診療に悪影響を及ぼし、それが夜間対応の頻度を増やすという悪循環に陥ることもわかりました。
そこで2012年10月、救急診療部(夜間・休日専従当直チーム)を発足させました。佐々木が一人で担当していた夜間対応に、徐々に非常勤の総合診療医・救急医を加えていき、2013年4月、当直医のみによる夜間対応体制に完全移行しました。
2020年現在、夜間・休日対応は、救急診療部の医師が主治医を介することなく電話対応・臨時往診に一元対応する仕組みとなっています。またクラウド型電子カルテシステムにより当直医―主治医間でリアルタイムの診療情報共有ができることも、この仕組みを可能にしている重要な要因です。

わたしたちが考える「24時間対応」のあり方
在宅医療に対して「あかひげ先生」のイメージを思い浮かべる人が多いと思います。しかし医師も人間です。24時間働き続けることはできません。実際、それを試みて過労死やバーンアウトする医師は少なくありません。
在宅医療は、自宅で24時間安心して療養を続けるための地域のインフラです。そのために最も重要なのは「持続可能性」です。それは主治医個人のみが担うものではなく、地域全体で支えるべきものです。
わたしたちは、在宅医療が途切れることなく24時間のサービスを提供し続けるために、日勤帯と夜間・休日の勤務シフトを完全に分離しました。これにより、主治医は日勤帯に担当する患者の在宅療養支援に専念し、夜間・休日は当直医が緊急対応を担当します。現在、休日は3名の日直医、夜間は2名の当直医が、新橋本部と川口クリニックに待機し、患者からのコールに即応体制で備えています。
主治医を24時間対応の義務から外すことで、いくつかの副次的な効果も確認することができました。

  1. 主治医の訪問診療の完成度が上がる

    主治医に夜間・休日の急変対応をできるだけ減らそうというモチベーションが働くようになりました(急変が予想される患者については日勤帯のうちに訪問して対応しておく、急変時の対応についてあらかじめ患者・家族と方針を決めておく、など)。
    これにより緊急コールの頻度も約60%低下しています。

  2. カルテの記載が充実する

    主治医以外の医師がスムースに対応するためには、病状経過や治療内容、緊急時の対応方針など、カルテにしっかりと記載しておく必要があります。わたしたちはチームでカルテの記載ルールを統一することで、主治医以外の医師にもスムースで連続性のある診療対応を可能にしました。

  3. 緊急対応の品質が向上する

    当直医が24時間院内に待機することで、往診が必要なケースには即応できるようになりました。これにより患者宅への到着時間はコールから平均35分と非常に短くなりました。医学的必要性が低いと考えられる場合でも、患者が往診を希望する場合には、原則として全例対応するようにしています。

  4. 医師のワークライフバランスを確保する

    常勤医から夜間・休日の義務を外すことで、医師は昼間の診療に専念できるとともに、長期休暇の取得も可能になりました。医師の勤務環境に対する満足度が向上し、産休・育休明けの医師の時短勤務など、さまざまな雇用形態も可能になりました。常勤医師の雇用確保にも貢献しています。

救急診療部発足直後は、緊急対応に対する患者評価が落ちるかもしれないという懸念もありましたが、診療満足度調査の結果はその逆でした。また当初は、介護事業所や施設運営者から、主治医が対応すべきだというお叱りを受けることもありましたが、現在は、多くの事業者から当直体制のほうが安心であるという評価をいただいています。

在宅医療の24時間対応は医師個人の責任から、地域全体の責任へ。
GP(家庭医)先進国の英国やオランダなどでも、家庭医は、夜間・休日は時間外専門機関に対応を委託し、仕事を休むのが普通です。首都圏での後期高齢者の急増に備えるためには、日本においても同様の仕組みを整備していく必要があるのではないかと感じています。

管理部門+運営部門+
システム部門の集約
本部機能の統合・移転

管理部門+運営部門+
システム部門の集約
本部機能の統合・移転

クリニック数・スタッフ数の増加により、在宅医療部本部およびMS法人の汐留のオフィスはかなり手狭になってきました。また、ホテルの客室をベースとしたオフィスは部門別に壁によって遮られており、部門間の情報共有や協働の障害になっていました。
そこで2013年5月、新橋5丁目のワンフロア400m²にオフィスを移転しました。
同時に浜松町にあったシステム会社も同一オフィスに集約しました。
部門別に個室・別オフィスに分かれていた多職種が1つのオープンスペース・オープンアドレスで仕事をする環境を整えたことで、さらにスピーディで一体感のある運営が可能になりました。

在宅栄養サポートチームの設立
地域総合栄養ケアへの取り組み

栄養ケア・摂食機能ケアは患者のQOLや予後を左右します。
そこで、わたしたちは開設当初から訪問歯科診療・口腔衛生指導には力を入れてきました。しかし、口腔機能へのケアだけでは十分なアウトカムが得られないケースも経験するようになってきました。

より総合的な栄養ケアのカタチを模索し、新宿食支援研究会の門をたたきました。会を主催する五島朋幸先生とハッピーリーブスのメンバーの助言を通じて、2013年「在宅栄養サポートチーム(在宅NST)」を開設しました。既存の歯科・口腔ケアチーム(歯科医師・歯科衛生士)に、2名の管理栄養士、そして院内の精神科医・消化器科医・理学療法士・按摩マッサージ指圧師らが新たにメンバーとして加わり、総合的な在宅栄養ケアが提供できる体制を整えました。

現在、悠翔会の在宅NSTは、各地域の専門職との連携を軸に、それぞれの地域の在宅ケアコミュニティに補完的に関わり、少人数ながらも支援が必要な在宅患者のケアに積極的に関わっています。

近年、ようやく低栄養・サルコペニア・フレイルの重要性が理解されるようになってきていますが、地域によってはまだまだ認知度が低いのが現状です。これらの啓発活動も在宅NSTの重要な使命と考え、チームのメンバーは各地域での勉強会や各種媒体への情報発信を積極的に行っています。また、これらの情報を実際のケアに生かせるよう、ケアマネジャーに対する栄養アセスメントの研修、ヘルパーに対する介護職の調理実習なども地域ごとに開催しています。

在宅NSTは、診療収入的には黒字化することが難しい部門です。しかし、法人全体の診療レベルの向上に貢献するとともに、患者や地域に対する付加価値の大きな事業であることは間違いありません。今後も社会事業として積極的な活動を継続展開していく予定です。

当直機能のオープンサービス化
法人外との診診連携の推進

在宅医療の普及の最大の障壁となっているのが365日×24時間対応の義務です。在宅医療を標榜している診療所も、夜間・休日対応への限界などから、実際には看取りに対応できているのは約5割、その大部分が年1~3人程度の看取りにとどまっています。
わたしたちは、在宅医療の24時間対応は医師個人の責任から、地域全体の責任へ移行すべきであると主張してきました。そして、法人内においては「救急診療部」を設置し、日勤帯と夜間・休日の勤務シフトを完全に分離し、診療品質の向上につなげてきました。

「救急診療部」という当直機能は、悠翔会の診療サービスにおける重要な強みであり、地域の他の在宅クリニックとの差別化の要因です。しかし、悠翔会が地域の在宅患者を抱え込むことは、「患者さんのニーズが最優先」というわたしたちの価値観とは合致しません。
これまで長く診てくれた主治医が、在宅で療養生活をつづけることになっても最期まで伴走してくれる、そんな地域を創ることこそが、わたしたちの本当のエンドポイントなのだと考えました。
そこで2013年、地域の在宅医療対応力・看取り力を強化するため、法人外の地域のクリニックに対して夜間・休日対応のバックアップを開始しました。これは、連携型機能強化型在宅療養支援診療所の枠組みによるもので、クラウド型電子カルテシステムで患者情報をリアルタイムで共有しながら、必要に応じて救急診療部が連携するクリニックの夜間・休日対応を支援します。
この取り組みにより同年から連携を開始した7クリニックは1年間で在宅患者数が78%増加し(管理料算定患者数409人→727人=318人)、在宅看取りは145%も増加(年間看取り件数22人→76人=54人)しました。これまで在宅看取りの経験のなかった4クリニックも合計で24人を看取ることができました。
現在、連携医療機関は12クリニックまで拡大し、2000名の法人外の在宅患者の夜間・休日対応を適宜バックアップしています(2020年現在)。
2016年診療報酬改定では「在宅医療に特化したクリニック」が初めて認められました。年間看取り20件以上、平均要介護度3以上などの医療介護依存度の高い患者の割合が50%以上など、高いハードルが示されていますが、在宅医療に特化してきたわたしたちにとって、在宅医療が一つの専門領域として認識されたものとして高く評価しています。
今後、在宅医療機関も機能分化が進んでいくものと予想していますが、わたしたち在宅医療に特化したクリニックは、かかりつけ医では在宅対応が難しい重難度ケースや夜間・休日対応の診療支援を中心に在宅医療に関わり、地域のセイフティネットとして機能していくべきではないかと考えています。

24時間多目的コールセンターの開設
業務効率化・アウトソーシングの推進

24時間多目的コールセンターの開設
業務効率化・アウトソーシングの推進

事務的業務を集約・効率化することを目的に、沖縄県那覇市に24時間対応の多目的コールセンターを開設しました。
クラウド型電子カルテシステムHOMISを情報共有プラットフォームとして活用しながら、電子カルテの夜間サポート、書類の出力・封函・発送などに対応しています。将来的には訪問看護ステーションや介護事業所のコールセンター機能の受託、請求業務のバックアップ機能などの実装を想定しています。

在宅医療カレッジの定期開催
多職種連携を支える学びのプラットフォーム

在宅医療カレッジの定期開催
多職種連携を支える学びのプラットフォーム

悠翔会ではこれまで法人内スタッフ向けの勉強会を継続的に開催してきました。しかし、この学びを地域の多職種と共有しなければ、その成果を有効に活用することができないのではないかと考えるようになりました。

そこで2015年3月、スタッフ向け勉強会を外部に開放し「在宅医療カレッジ」としての定期開催を開始しました。
在宅医療カレッジは、専門性の枠を超えた学びのプラットフォームを地域の多職種に提供することで、在宅療養支援に必要な知識やスキルの全体像を俯瞰し、より効果的な役割分担、そしてそれぞれの専門職の役割を再定義することを目指しています。在宅医療における「学び」には難しさがあります。在宅ではそれぞれの専門職が独立して仕事をしていることが多く、現場で同職種・他職種から学ぶ機会は多くありません。自ら意識しなければ最新の知見に触れることも難しく、専門職としての成長が滞る傾向があります。また、多職種連携の役割分担の中で専門外領域との接触機会は少なく、「知らない」こと自体に気が付いていないケースも少なくありません。在宅医療カレッジは、各専門職の学びのモチベーションを刺激するとともに、学びのためのオリエンテーションとナビゲーションを提供したいと考えています。
在宅医療カレッジでは、それぞれの領域のトップランナーを招聘しセミナーを開催してきました。このセミナーを通じて、まずはその領域の存在を知り、その領域の全体像を理解し、在宅医療職として総合的な知識を身につけるとともに、専門職として学びを深めるべき部分を見つけ出すことができます。また、普段孤独に仕事をしている多職種が交流することで互いのモチベーションを高め合うこともできます。
2015年の発足以来、わたしたちの診療圏域において38回にわたる通常開催(2020年現在)のみならず、被災地などへの出張キャンパスも開催しました。
超高齢社会日本の未来を暗くするのも明るくするのも、医療介護の専門家であるわたしたち次第。一つひとつの人生が最期まで輝き続けることができたら、この国全体がきっと輝きを増すはずです。シームレスな多職種連携はそのための絶対条件。まずは職種の壁を越えて「共有」するところから始めなければならないと感じています。

訪問看護事業への参入
「学研ココファン・ナーシング」の設立

2015年10月、わたしたちは株式会社学研ココファンホールディングスと合弁会社「株式会社学研ココファン・ナーシング」を立ち上げました。これは訪問看護を主たる事業とする株式会社で、悠翔会グループからも役員を派遣しています。
悠翔会と医療連携している横浜市鶴見のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)(学研ココファン横浜鶴見)に最初の訪問看護ステーションを開設、ここを拠点に事業を拡大、現在神奈川県内3拠点で訪問看護を提供しています。今後、首都圏に順次ステーションを開設していく予定です。
わたしたちは訪問看護ステーションとの連携を非常に重視しています。
現在、300を超えるステーションに訪問看護指示書を発行し、1000名以上の患者さんに訪問看護をお願いしています。このパートナーシップは今後も変わることはありません。
学研ココファン・ナーシングがステーションを開設する地域においては、悠翔会との医療連携を効果的に行っていくことを目指しますが、これは排他的なものではありません。クリニックも訪問看護ステーションも、地域に選択肢があるということは患者・家族にとって重要なことだと思いますし、それぞれの現場で働く専門職は、受け持つ患者さんにとって最適なパートナーを選択するはずです。
最適なパートナーとして選択される事業所となるべく、相互に研鑚を重ねていく。
緊張感のある連携を通じて、よりよい地域づくりに貢献していきたいと考えています。

在宅医療のメインプレイヤーは訪問看護
在宅医療において、支援側のメインプレイヤーは医師ではなく看護師であるべき、というのがわたしたちの以前からの考えです。
在宅療養支援において、医師(医療行為)が提供できるものは限られています。患者さんの生活や参加に直接的に関わるのは、看護師・理学療法士・歯科衛生士・管理栄養士などのコメディカルであり、その中核は看護師だと思います。医療と介護の橋渡しとして、予防から緩和ケア・看取りまで幅広く支援できる専門職として、在宅での看護師の役割はさらに重要になっていくと考えています。わたしたちは、この訪問看護事業会社を通じて実現したいことがあります。

「持続可能な訪問看護」を実現すること
これまで、たくさんのステーションが生まれては消えていきました。どんなに高い理念を掲げても、疲労やストレスに耐え続けることはできません。悠翔会は「持続可能な在宅医療」を実現するために、昼と夜のシフトを分離し、それぞれがそれぞれの持ち分の中でベストを尽くす形を目指しました。それは結果として日中の診療の質を高め、夜間の緊急対応の頻度を減らし、患者満足度の向上にも寄与しました。訪問看護においても、同様の仕組みを早期に完成させ、働く人のやりがいとワークライフバランスが両立できる場所をつくりたいと思います。

訪問看護をより一般的なキャリアにすること
「訪問看護に挑戦してみたい」という気持ちに応えられる研修と教育の仕組み。そして病院と在宅という二つのステージを自由に行き来できるようなキャリアパス。訪問看護を一定期間経験してから、病院で緩和ケアや退院支援などの業務を経験することは非常に有意義であるように思いますし、病棟勤務を続けたいという方が一定期間訪問看護を経験するということにも大きな意味があるように思います。

地域全体をサポートできる後方支援型(機能強化型)訪問看護ステーションをつくること
悠翔会は地域の在支診との24時間連携により、地域全体の在宅医療対応力・看取り力の強化に取り組んできました。
訪問看護においても、24時間対応をサポートすることができれば、地域全体の訪問看護力を強化することができるのではないでしょうか。単体ではオンコール体制の維持が難しい小規模ステーションの夜間対応の負担を軽減することができますし、それは地域の患者さんに対する在宅対応力の強化につながるかもしれません。

アジアへの情報発信
高齢先進国日本から世界へ

アジアへの情報発信
高齢先進国日本から世界へ

わたしたちは、これまでも主にアジア各国からの海外視察を積極的に受け入れてきました。また、悠翔会の法人内のみならず、日本の優れた医療介護事業者の視察のコーディネートなどにも協力してきましたが、2016年はわたしたち自身が海外で情報発信をする機会に恵まれました。世界が日本の高齢化への取り組みに注目しているということを肌で感じた1年でした。同時に、海外の先進事例を学ぶことの重要性も再認識しました。
日本で介護保険法が成立したのは1997年。当時の日本の高齢化率は14.5%でした。
それから20年、日本の高齢化率は2倍になりました。2000年に介護保険法が発効、様々な事業体から多様な介護サービスが提供される体制が確立しました。介護予防や保険外サービスの拡充など、積極的に取り組むべき新しい課題も生まれてきていますが、日本が高齢化対応で世界の先端を走っていることは間違いありません。
いま香港の高齢化率は15.1%。介護保険法を成立させた当時の日本の高齢化率を超えました。同じく高齢化率13.1%の韓国、11.7%のシンガポール・・・アジアの国々も確実に日本の来た道を進んでいます。韓国とシンガポールは2032年に、中国本土は2050年に、いまの日本の高齢化率に到達します。そして、これらの国々はいま、避けられない未来に向けて準備を急いでいます。
高齢先進国として、日本がアジアやオセアニアの国々にどう貢献していくのか。そしてアドバンテージをどう生かしていくのか。日本の成功事例をうちに秘めておくことなく、自信をもって世界に飛び出していく時期なのかもしれません。
わたしたちは自ら海外で医療介護事業を展開する計画はありませんが、それぞれの国の事業者が、日本のノウハウを活用できるよう、求められれば積極的な支援を行っていくつもりです。現在、MS法人を通じて中国、タイ、マレーシアなどの大学や現地事業者と継続的な対話を行っています。

基本理念の確認・人事制度の刷新
未来に向けてのトランスフォーム

基本理念の確認・人事制度の刷新
未来に向けてのトランスフォーム

わたしたちは2018年度を「第二創業期」と位置づけました。
在宅医療は、その量的ニーズの高まりのみならず、質的ニーズの多様化が進んでいます。これに応えるためには、組織形態そのものを見直す必要があると考えました。
「かかわったすべての人を幸せに」という基本理念を明確にし、その理念を実現するためのビジョンと社会に対する責任を具体化しました。
そして、各クリニックの自律性を高め、それぞれ院長を中心に、地域のニーズに柔軟に対応していけるよう、採用から人事評価、教育研修まで一貫したシステムの構築に取り組みはじめました。
わたしたちは首都圏最大の在宅診療チームとして、成長を加速していかなければなりません。1+1=1ではなく、1+1=3になる。そんなチームワークを実現するためには、一人ひとりのメンバーの成長が不可欠です。
わたしたちは、地域医療の理想を追及する先進的医療機関であり続けると同時に、すべての職員が仕事を通じて成長し、豊かな人生を実現するための場を提供しなければなりません。
そして「かかわったすべての人を幸せに」しながら、豊かな未来をわたしたち自身の手で創り出したいと思います。

高齢者の「望まぬ救急搬送」を減らす
夜間・休日の高齢者「初診往診」の仕組みづくり

2019年の東京消防庁の救急搬送件数は年間81万件。ここ数年、伸び続けています。
実は、東京都においては、74歳未満の救急搬送は増えていません。15歳から44歳まではむしろ減少傾向です。東京都における救急搬送の増加要因は、そのほとんどが75歳以上の後期高齢者の救急要請の増加によるものです。
今後、東京都では後期高齢者数が増加していきます。
このままだと、救急搬送件数は増え続け、救急医療システムが破綻してしまうかもしれません。
一方で、救急搬送されたケースの内訳を見てみると、実は半数以上が軽症です。つまり、119番コールの約半数は、救急搬送が必要なかったケース、ということになります。
もし、高齢者に「往診」という選択肢があったら。
この救急搬送は必要なかったかもしれません。
わたしたちは、特に救急医療システムの負担の大きい夜間・休日、地域の高齢者を往診でサポートする仕組みを作るべく、ワーキングを開始しています。2018年2月にはプロジェクトチームのメンバーが往診サービスを提供しているフランスの医療NPO「SOSメドサン」の視察に行き、新しい仕組みづくりの検討を始めています。

2025年に向けて
わたしたちはどうあるべきか

かつてのノストラダムスの予言のように多くの人が恐れる2025年。
首都圏では後期高齢者の激増が予想されています。一方で介護施設は慢性的な不足状態にあり、介護の専門職も大幅に不足しているかもしれません。通院困難になる人が増え、施設入所や入院はますます難しくなり、少ない多職種でより多くの高齢者を支えなければなりません。在宅医療の不足も深刻化しているかもしれません。
予想可能な未来に向けて、わたしたちは在宅医療機関として、そして地域の一員として、2つのテーマに取り組んでいきたいと考えています。

在宅医療に特化したGPから、地域のGPへ
悠翔会はいま一部のクリニックで外来診療を開始しています。2017年に開設した悠翔会くらしケアクリニック練馬では、外来、さらには在宅療養支援病床を併設しました。
わたしたちはこれまでの10年間、在宅医療に特化した診療を展開してきました。そして2020年現在、約4600人の在宅患者にGPとして関わり、地域の多職種とともに在宅でのプライマリケアから看取りまで総合的に対応しています。
しかし在宅医療が患者との関わりを許されるのは、患者が通院困難になってからです。もう少し手前から関わらせていただくことができれば、この人の人生をもう少し違った形にできたのではないか・・・そう感じることが少なくありません。
今の日本の医療システムは、高齢化社会に最適化しているとは言い難い状況です。急性期病院と専門診療だけで高齢者の疾病治療・健康管理を支えていくことはできません。高齢者に必要なのは、病気別の専門医ではなく、心身から生活までを包括的に診ながら人生に伴走してくれる総合診療医なのだと思います。
在宅医療に特化したGPから、地域のGPへ。在宅医療で培った総合力を、在宅医療が必要になる前に地域の高齢者や終末期患者に提供することで、その人たちの人生にもう少し違うかたちで関わることができるのではないかと考えています。

地域の在宅医療ネットワークの一員として
わたしたちの使命は、在宅医療クリニックとして、地域のクリニックをバックアップしながら地域全体の在宅医療力・看取り力を向上させることであると考え、積極的に取り組んできました。そして、地域で在宅医療に積極的に取り組むクリニックと機能強化型の診診連携をはかることにより、連携グループ全体での在宅患者数・看取り数も大幅に増加しました。
しかし医師会とは異なるレイヤーで連携を進めていくことに緊張感を感じている地域の先生方がいらっしゃることは事実です。また、少数の在宅患者さんを診ているかかりつけ医の先生方を機能強化型の連携の中でバックアップすることは制度的に困難です。
今後は各地域の医師会の一員として、地域づくりの活動を通じて地域の先生方と信頼関係を築きながら、医師会という、よりパブリックな枠組みの中で在宅医療クリニックとしての役割を果たしていかなければならないと考えています。

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